第5章 無人島
「やぁーっぱり、永四郎は王子様やっしー」
笑いながらおどけて言う平古場君の声に、俺は苛立ちを隠すことなく彼を睨み付ける。
彼の言葉に本気で腹が立ったわけではない。自分で自分の気持ちがよく分からない苛立ちを、彼にぶつけているだけだ。
俺の視線に小さく悲鳴をあげながら、平古場君はごめんごめんと気のない謝罪をよこした。
「あとで、ゴーヤーですね…」
「あいっ!褒めただけなんに…ゴーヤーは勘弁」
ふわりと香る花のような香りに瞬間、意識を奪われた。
同時に背中に触れる柔らかい感触に少しドキッとしてしまう。
大広間で見てしまった、彼女の谷間が鮮明に脳裏に蘇ってくる。
開いたシャツの間からのぞくそれは、零れ落ちそうで、見たいと思わずとも目がいってしまった。
俺も、一応、男ですから。
そういうものに興味がないわけではない。
しかし今、それを思考するにはいささか状況が悪い。
なるだけ意識の外に追い払おうと、頭の中で「ゴーヤー、ゴーヤー」と唱え、平古場君に後でどうやってゴーヤーを食べさせるかを考えることに頭の中をシフトさせた。
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*ヒロインside*
他のボートで漂着した中学生達とも無事合流し、私達は再びボートに乗って、近くに見える大きな島へ向かうことになった。
どうもそこが合宿を行う予定の島だったらしく、山の方には小屋のような建物もいくつか見えていた。
ボートが島に着くなり、木手くん達はさっさと歩きだして島の中へ行こうとしていた。
「ちょ、ちょっと待って、まだみんな着いてないよ?」
「待つ義理はありませんからね。俺達は俺達で勝手にやります。…あなたも、もう大丈夫ですよね?跡部君じゃなくても、他に親しい人がいるようですし…今度からそちらを頼ってもらえますか」
事もなげにそう言う木手くんは、昨日の船内の木手くんと同一人物とは思えなかった。
昨日はあんなに親切にしてくれたのにー、あの状況下だから仕方なく、だったのだろうけど。
そのことが少し、悲しく思えた。
私は彼に近づけた気でいたけれど、彼の方はそうでもなかったようだ。
出会った時と同じ、冷たい視線で彼は私を見つめていた。