第1章 終わって始まる
7月も半ばを過ぎようとしていた頃、私は大好きだった彼と別れることになった。
大学で出会った1つ年上の彼は、大学生になりたての私にはとっても大人に見えて、いつだって頼りになる大きな存在だった。
だから疑いもしなかった、まさか自分の友人と私の大好きな彼が、私のあずかり知らぬところでどうにかなっていただなんて。
私の友人、だった彼女はふくらみかけたお腹をさすりながら、私と彼との話し合いの場に現れた。
寝耳に水の出来事過ぎて、私に言える言葉はそう多くはなかった。
泣いてすがっても、この事実を覆すことはできない。
それ以前に、すっかり冷めきってしまっている自分がいた。
私の友人に手を出したばかりか、妊娠までさせていた彼に、それまでの彼に対するキラキラとした感情はもろい砂城のごとく崩れ去っていた。
ボロボロになりつつもなんとか試験期間を終え、日々鬱々と過ごしていた。
ある日そんな私を見かねて、母が一人旅に行くことを勧めてきた。
「ほら、太郎叔父さんのとこ、大型の旅客船持ってるでしょ?」
「ああ、そういえばそうだったね」
「で、今年は顧問のテニス部員の子達連れて、旅客船で島まで行って合宿をするんですって。」
「太郎叔父さんって、中学校の先生だったよね?なんかスケールが壮大すぎない?あの豪華客船でわざわざ島に行くの?」
太郎叔父さんの顔を思い浮かべると、自然とその横に並んだ氷帝学園のテニス部員達の顔が浮かんできた。
6歳ほど年下の中坊のくせにやたらと偉そうな、跡部くんの顔がぐるぐると私の周りをまわる。
「ほら、跡部くんって綺麗な顔立ちの子いたでしょ?あの子が…」
「あー、やっぱりそうなの。わかった、なんとなく納得がいったよ…」
氷帝学園のテニス部員達とは何度か顔を合わせたことがある。
その中でも特に、跡部景吾という少年は異彩を放っていた。
齢僅か14、5歳にして、まるでどこかの国の王様のような堂々たるオーラを纏っているのだ。
およそ平凡な中学3年生には見えなかった。
彼の不敵な、嘲るような笑い顔が目に浮かぶ。
あの少年──、もとい、跡部景吾なら計画しそうなことである。