第5章 無人島
「ああん?借りとかそういうんじゃねーだろ、こんな状況なんだぜ?」
「後で倍返しで請求してくるのが目に見えてるもん。自分で歩くよ」
はぁ、と跡部君がため息をついた。
眉間に皺を寄せて、嫌そうな顔をしながら彼は俺を指さしてきた。
キミもなかなかに失礼な人だ、跡部君。人を指さすものではない。
やはり跡部君とは馬が合いそうに、ない。
「おい、木手。こいつを運んでやってくれ」
「…は?何故、俺が指名されるんですかね」
「ここまでこいつの世話をしてくれたんだろ?あまり頼みたくはないが、お前ならこいつをなんとかしてくれるだろうと思ってな。…俺は他の奴らの面倒も見なきゃいけねぇしな」
『他の奴らの面倒』は、別にあなたが見なくてもいいと思うのですが。
各校に部長がいますし、何より他に皆をまとめてくれそうな立海の真田君や青学の手塚君もいる。
もとより俺達は誰かにまとめられることなど望んじゃいないが。
「…仕方ないですね。本当に倒れられても迷惑だ。ほら如月さん、俺の背に乗りなさいよ」
何故俺はこんなことをしているのだろう。
誰かに指図されるのはもっとも嫌いなことであるし、よく知りもしない女性の面倒を見る義理だってないはずなのに。
そう思っているはずなのに、俺の体はその思いと裏腹に動いて、彼女が乗りやすいようにと、体を屈めていた。
「ありがとう、木手くん」
何故彼女は今は素直に人の手を借りるのだろう。
俺には遠慮することはないと思っているのだろうか?
確かに船から脱出する時には、彼女を抱きかかえてボートまで走った。
ボート上でも震える彼女を励まし続けて、手を握っていたが。
それは緊急事態だったからであって。
何も今この時も、俺が彼女に優しくする理由は何もないはずなのに。
手助けできる人間は俺のほかにもたくさんいるはずだ。
なのに、何故──。
訳の分からない感情が押し寄せ、頭の中で糸がこんがらがったような感じがする。
この人に関わると、ペースを乱される。
何か嫌な感じがした。
それにこの人に関わると大抵ロクなことにならないー。
これが終わったら少し距離を置くことにしましょうかね…。