第5章 無人島
「あ、れ…?木手、くん…?」
腕の中の彼女は眩しそうに目を細め、瞬きを繰り返して俺の顔を確認していた。
次第に目の焦点もしっかり合うようになり、同じように意識もしっかりしてきたのか、自分が置かれている状況を把握して驚いたように飛び起きる。
「わっ、あっ、えっ??!私寝てたのっ??ああぁ、木手くん、なんか…何度もごめん…迷惑かけてばかりだね」
「寝ていたというより、気を失っていたのだと思います。迷惑とは思っていませんよ。…緊急事態でしたしね。それより、体は大丈夫ですか」
そっけなく答える俺に、如月さんは何度もぺこぺこと頭を下げる。
そんなに謝る必要などないのに。
俺は俺の出来る事、するべき事をしたまです。
「う、うん…多分…少し、頭がクラクラするけど…」
「おい美鈴。俺がおぶっていく、背中に乗れ」
フラフラしている如月さんを跡部君が介助しようとしたが、彼女はそれを断った。
何をしているのだろうか、この人は。
そうやって意地を張られると、かえって周囲の迷惑になるのが分からないのですかね。
また倒れでもしたら、余計に迷惑するというのに。
本当に俺より年上なのだろうか―?
「あのねぇ、こういう時に意地を張るものではありませんよ。無理して倒れられても迷惑するのは周囲の人間です。少し考えたら分かるでしょう?あなたいったい幾つなんですか?」
中学生の俺にこんなことを言われて恥ずかしくないんですか、と心の中でつぶやく。
けれど、今まで会話した中で、彼女が何度か俺の言葉に「傷を抉らないで」と返してきたことがふと頭に浮かんで、少し言い過ぎてしまったか、とも思った。
俺の言葉に棘があるのはいつもの事であるし、そういう言動が身についてしまっている俺としては、加減するのは難しいことだった。
「うん…そうだね。でも跡部くんはイヤだ…借りを作りたくない」
素直に頷いたかと思えば、馬鹿だとしか思えないような答が返ってきた。
そんなことを言っている状況ではないでしょうに、この如月美鈴という女性は年の割に子供っぽく、変なところで頑固だった。