第5章 無人島
*木手side*
「おい!全員、いるか?」
「うちは揃ってる」
「うちは…何人かいないな。別の救命ボートに乗っていたはずだから…どこか違う場所に漂着しているのかもしれない」
「ちっ、手分けして探すしかねぇか…」
俺達の乗っていた救命ボートはなんとか無事に島へとたどり着くことが出来た。
俺の腕の中でいまだ気を失っている彼女に、海の上ではずっと「大丈夫だ」と励ましてはいたものの、
あの嵐の中大きく揺れるボートの上では、正直、『死』の一文字が俺の頭をよぎっていた。
彼女を励ましつつ、その言葉で無意識に、自らをも励ましていたのだろう。
同じ救命ボートに乗っていた他校の生徒達も、無事島に漂着できたことに安堵しつつも、状況を把握しようと必死になっているようだった。
場を取り仕切る跡部君の声が響く。
…本当に彼は仕切りたがりのようですね。いや、この状況は彼にとっては己の力を示す絶好の機会に違いないでしょうが。
生命の危機に陥っていたはずの救命ボート上でも彼はどこか嬉々として皆の先導をとっていたのを思い出す。
まるで彼を中心に物事が回っているかのような話の流れに、俺は頭のどこかで違和感を覚えていた。
「永四郎、まだ目あけないのか?」
「息はしとるんばー?」
甲斐君と平古場君がそう言いながら、心配そうに彼女の顔を覗き込む。
跡部君のことは少し気がかりではあるが、今は目の前の彼女の心配をする方が先でしょうね。
目を落として、腕の中の彼女の様子を再確認する。
息はあるようですが、体が冷え切ってしまっているのが気がかりです。
「甲斐クン、俺の荷物の中から、ジャージを取ってもらえますか」
甲斐君から手渡されたジャージを受け取り、そっと彼女の体にかける。
通気性の良いジャージでどこまで保温できるか分からないが、何もしないよりかはマシでしょう。
「木手、美鈴の様子はどうだ?」
この場にいる人数の確認を取り終えた跡部君が先ほどの甲斐君達と同じような顔で覗き込んでくる。
長い睫毛を濡らしたまま目を覚まさない彼女と、跡部君はいくらか親しいようですね。
そんなに心配なら君が変わって彼女の世話をしなさいよ、という言葉が俺の喉元まで出かかったところで、うう、と小さく呻く声が聞こえた。