第4章 大脱出
「隙があるとつけこまれてしまいますよ。旅行で開放的な気分になるのは分からなくもないですが。…1人旅して大丈夫なんですかね、あなたは」
そう中学生に言われてしまい、ますます消え入りたい気持ちでいっぱいになった。
やっぱり傷を抉ってくる木手くんに涙目で返事をする。
「うう、気を付ける…から、それ以上傷を抉らないで」
「傷を抉る?…そんなつもりはさらさらなかったのですが…俺より年上なのに、ちょっと心配になっただけですよ」
その時、ふっと木手くんが小さく笑った。
瞬間、その顔に不覚にもドキリとしてしまう。
整った顔が見せる微笑みは、破壊力抜群だった。
それまでのクールな顔しか知らない私には十分な刺激だった。
「なんですか?俺おかしなこと言いましたか?」
呆けてしまっている私に木手くんは怪訝そうな顔をする。
「ううん、言ってないよ。あ、早く持って行こうかズボン。シミ抜きしてもらわなきゃ。早ければ早いほど綺麗に落ちるはずだよ」
心を読まれないように、話題を変える。
納得のいかない顔をした木手くんの背を押して、クリーニング室へと向かう。
「…こっちじゃないですよ、クリーニング室は反対側です…」
もう何度目か知れない呆れた木手くんの声が廊下に響いた。
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「ではよろしくお願いします」
木手くんが礼儀正しくお辞儀をして、クリーニング室の船員さんにズボンを手渡すと、「これならすぐに終わるから」と言われ、しばらく扉の前で待つことになった。
クリーニング室にはシミ抜き専用の道具が置いてあり、シミ抜き専用の職人さんもいるそうで、本当にすぐに木手くんのズボンは綺麗になって返ってきた。
「あっと言う間だったね、すごいわ~さすが叔父さんの船…」
「たしかにこれは凄い。どこにシミがあったか全く分かりませんね。」
二人してズボンをしげしげと眺めている姿は、傍から見ればさぞ面白いものだったに違いない。
なんとなく和やかな雰囲気が漂っているような気がして、自然と口元が緩む。
「さて、あなたはどうしますか?会場に戻りますか?」
「そうだなぁ…部屋に戻ろうかな。もうお腹もいっぱいだし」
「そうですか。では部屋まで送りましょう。どうせ道が分からないでしょうから」