第4章 大脱出
「ここで少し待っていてもらえますか。着替えてきます」
木手くんの後をついていって、彼の宿泊する部屋の前までやって来た。
手短に言うと木手くんは静かに部屋の中へと消えていった。
ものの数分で着替えを終えた木手くんが部屋から出てきた。
彼の手には端をしっかり合わせて几帳面に折りたたまれたユニフォームのズボンがあった。
紫色の生地には遠目からでも分かるほどシミがばっちりついていた。
「本当、ごめんね。私の不注意で」
「もう済んだことです。いつまでも謝られるのもうっとうしいです」
ばっさりと謝罪を拒否され、また少ししょんぼりしてしまう。
そんな私を見て、木手くんが静かに口を開いた。
「…このくらい特に気にしていませんよ。そんな顔しないでもらえますか?」
困ったような顔でそう言う木手くんを見て、ああ彼もこんな顔をするのか、と思った。
そのことに何故かひどくホッとする自分がいた。
「ああ…一つ忠告してもいいですか?」
急に木手くんの声音が変わった。
その変わり身の早さに私が驚く間もなく、木手くんは言葉を続けた。
忠告とは穏やかでない言葉だ。
また傷を抉られてしまうのだろうか、と私は身構えた。
「もう少し、襟ぐりがつまった服を着た方がいいですよ。さっき、見えていました」
「へっ…?見えてたって…?」
おそるおそる木手くんに尋ねる私に、彼は呆れたように息を吐き出す。
「…全部言わないと分かりませんか?さきほど、あなたが俺のズボンを拭いていたとき、あなたのむ…」
「わーっ!分かった!分かったから、それ以上言わなくていい!!」
だからあの時、木手くんは黙ったまま突っ立っていたんだ。
頭の中に先ほどの光景が鮮明によみがえる。
今着ているシャツは屈んだりすると胸元が開くので、前から気にはなっていたものだった。
けれど急に決まった旅行に服を買いに行く暇もなく、手持ちの中でわりとマシなものを着てきたのに。
木手くんに見られていたのだとしたら、周りにいた他の子達にも見えていただろう。
裸を見られたわけではないけれど、恥ずかしいことには違いない。
しかも直接こんなにハッキリ指摘されてしまうとは…穴があったら入って消えてしまいたい。