第3章 楽あれば…
その後、立海の柳生くんや柳くんも私達のところに料理を持ってきてくれた。
彼らは純粋に気遣ってくれての行動で、私はそのことに感動してしまった。
あの子達も素敵な男性になるだろうなぁ、と心の中でつぶやいた。
料理をひとしきり食べ、なんとなく気持ちも緩くなる。
ふと喉の渇きを覚え、飲み物を取りに行く。
飲み物の種類の多さにどれを選ぼうか悩んだが、目にも鮮やかな赤い液体にすることした。
ローズヒップとハイビスカスの入ったハーブティー。
思いのほか勢いよくドリンクサーバーから出てきた液体は、小さなグラスになみなみと注がれることになった。
グラスの縁からこぼれないよう視線がそちらに集中していた為に、私は周囲の様子に気がいっていなかった。
トン、と何かにぶつかり、その勢いでグラスが手から離れてしまった。
赤い液体をまき散らしながらグラスは床に落ちてしまった。
慌ててグラスを拾い上げようとしたその時、私の目に濡れてしまったズボンの裾が目に入った。
紫の細身のそのズボンの持ち主は、顔を上げずとも誰であるか私には分かった。
「また…あなた、ですか…」
低い声が頭上から降ってくる。
申し訳なくて顔を上げにくいが、きちんと謝罪をしなければ、と気持ちを奮い立たせる。
「ごめんね、木手くん!ユニフォーム汚してしまって」
持ってきたカバンからミニタオルを取り出して、赤黒くなってしまっている木手くんのズボンの裾を拭く。
シミが広がらない様に、タオルでつまむようにして出来るだけ染み込んでしまった水分を取ろうと試みる。
「あっ、叔父さん!太郎叔父さん!染み抜きとか頼めますか?!彼の裾を汚してしまって…」
近くにいた太郎叔父さんに私は助けを求めた。
無言のまま立ちすくんでいる木手くんがちょっと怖くて、顔をそむけてしまったのは内緒だ。
「すぐ手配させよう。木手、着替えは持ってきているな?」
「…ええ、部屋にあります」
やっと口を開いた木手くんに少しホッとして、部屋に戻ろうとする木手くんの後を思わず追った。