第3章 楽あれば…
豪華なごちそうを前に、お腹をすかせた成長期の中学生達は、はしゃぎにはしゃいでいた。
そんな彼らの姿を見ていると、中学生らしくて微笑ましくなった。
目の端に、中学生達の獣のような食事の勢いに尻込みしている人影が入り込んできた。
山のように盛られたたくさんの料理が、瞬く間に空になる様子に目を丸くしている女の子2人がいた。
彼女達も手にお皿を持ってはいるものの、この場の空気におされてか、なかなか料理をとれないでいるようだった。
「大丈夫?とってきてあげようか?」
「えっ、あっ、だ、大丈夫です!私達無理言って乗せてもらってるんで…」
「でもここに来ているってことは立食パーティーに招待されてるんでしょ?食べなきゃもったいないよ」
「あ、はい…でもあの勢いが落ち着くまではちょっと…」
言って、少女たちは目の前で繰り広げられている食事というよりも争いの場面に目をやった。
確かに、あの中にこの子達が割って入るにはかなりの勇気がいるだろう。
「たぶんね、落ち着くことないと思うよ、あれは…よし、お姉さんに任せなさい!」
料理の確保は彼女達のためでもあったし、自分のためでもあった。
少年達の旺盛な食欲を見ていたら、つられて空腹感が増してきていた。
しかし、そう簡単にはあの中に入っていくことは私にもできなさそうだった。
ここは食欲バトルを繰り広げている彼らをうまく使うしかない。
「千石くん!お願いがあるの」
「あっ、美鈴ちゃん!なになに?美鈴ちゃんのお願いならなんでも聞いちゃうよ~?」
心なしか千石くんの鼻の下が伸びているような気がしたけれど、気づかぬふりで言葉を続ける。
「あのね、私達も料理食べたいんだけど、みんなの勢いがすごくって。ちょっと取ってきてほしいなぁ」
わざと語尾を伸ばして甘ったるく喋ってみる。
小首を傾げて、若干上目使いに。こういうときは、少し大げさなくらいがちょうどいい。
年上の女性に甘えて頼られるというシチュエーション、千石くんが好きそうだと思ってやってみたけれど、効果はいかばかりか。
「任せて!たくさん取ってきてあげる~!!」
満面の笑みで料理を取りに向かう千石くんの後ろ姿を見送って、私は女子2人を振り返って、ブイサインする。
私の言動にビックリしつつも2人は笑っていた。