第3章 楽あれば…
「なんだーね?なんか文句あるだーね?」
「いえ…ただ、キミ達に自給自足の生活が出来るのか、と思いましてね」
木手くんが言葉を発する度に、会場の空気がピリピリしたものになっていく。
彼はどうも人を挑発する癖がある様だった。
そして彼の周囲にはそれを止める人間がいないらしい。
木手くんのそばに佇んでいる甲斐くん達は木手くんの発言や態度にさして関心がないようだった。
「木手くん、争うのは大会にとっておいたら」
今にも喧嘩が始まりそうな少年達の間に、思い切って割って入った。
興がそがれたのか、木手くんはそれ以上敵対していた少年に向けて、言葉を発することはなかった。
「…おせっかいですね、あなたは」
「そうかもね。でも君の言動って見ていてヒヤヒヤするんだもの。口出さずにはいられないよ。さっきだって跡部くんとぶつかってたでしょ」
「あれは向こうがつっかかってきたのだと思いますがね」
木手くんは眼鏡を押し上げて、顎に手をあてて首をかしげた。
「おねーさん、よく永四郎に絡むなぁ。怖くないのか?」
甲斐くんが本当に不思議そうな顔でこちらをのぞく。
「怖い?なんで?中学生だもん、可愛いもんだよ?」
「ええーっ、可愛い?!永四郎がぁ?」
げぇっと声をあげて甲斐くんと平古場くんが顔を見合わせていた。
私の感覚がよく分からないといった風に、二人して首を何度もひねっている姿がおかしかった。
合宿の説明が一通り終わって、青学の手塚くんが乾杯の音頭を任され、中学生にしては堅い挨拶をした。
そこで立食パーティーが始まるはずだった。
にもかからわず、相変わらず目立ちたがりの跡部くんがその後、もう一度やりなおす!と彼流の乾杯の音頭をとった。
ざわめく会場を指を鳴らして静め、事前に準備していたかのようにスポットライトが跡部くんに当たっている。
合宿中にいがみあっていそうな木手くんと跡部くんの姿が目に浮かんだ。
叔父さんや他の監督達も一緒だから、きっと大事にはならないだろうけれど、大変な合宿になりそうだなぁと他人事ながら思った。
私が引率する立場だったら胃に穴をあけていたかもしれない。
「乾杯!」
跡部くんの声が響き、会場はいっきに騒がしくなる。