第3章 楽あれば…
立食パーティーの会場に着いたときには、もうほとんどの中学生達が会場に集まっていた。
まだ見たことのないユニフォーム姿の少年達もいて、あらためてこの船に乗っている人数に驚かされる。
「すごいね…こんなに集まったんだ」
「全国からだからな。面白い奴らが大勢いるぜ」
跡部くんは鼻でフンと笑ってそう言った。
どことなく嬉しそうな彼の表情は、年相応の少年の顔に見えた。
「──諸君、いいだろうか。全員集まったようなのでそろそろ始めようと思うのだが」
耳慣れた太郎叔父さんの声が大広間に響いて、ざわついていた会場がしん、と静かになる。
「…今回の合宿の目的はすでに聞いていると思うが…無人島の自然環境の中で、我々のみで生活し、精神と肉体を鍛えることだ」
叔父さんの話に続けて、青学の竜崎監督がマイクを握る。
「そういう訳で、明日には合宿所のある島に着く。ほれ、聞いとるのか、リョーマ」
「聞いてるッスよ」
リョーマ、と呼ばれた少年に皆の目が向く。
跡部くんが度々口にしていた名前だと思いだし、私もその少年に目をやった。
集まっている中学生の中では小柄だった。まだ中学一年生ということを考えれば、至極妥当な体格ではあるが。
身近に鳳くんや樺地くんと言った大柄な中学生を知っているためか、その落差に成長期の凄さを感じる。
彼は一体どんなテニスをするのだろう、跡部くんが一目置くような彼の試合での姿が気になった。
「今回の合宿は、自然環境の中で我々のみで合宿を行い、精神と肉体の鍛錬を行う事を目的にしておる」
竜崎監督がもう一度合宿の説明を繰り返すと、間髪いれずに青学の少年が質問する。
「って事は飯とかどうするんスか?」
「自分達で収穫から調理までやってもらう。当然、後片付けや掃除、洗濯に至るまでじゃ」
「ええっ?!それじゃ練習やってる暇ないじゃん」
また青学の少年が驚きの声をあげた。
でも彼の嘆きもよく分かる。
話を聞いているだけでも、本当にテニスの合宿なのかと疑いたくなるような過酷さだ。
「ふん…都会育ちの柔弱な人達が考えそうなことですね」
木手くんがそう口にすると、会場の雰囲気が一気に重くなった。
この合宿に参加しているのは東京の学校が多いらしく、「都会育ち」の言葉にひっかかる子達が多いのも当然だった。