第2章 嵐をよぶ女
変わらずおどける(それともこれが彼の素?)千石くんに苦笑しつつ、他の氷帝メンバーにも軽く挨拶する。
みんな相変わらずだったけれど、一人雰囲気の変わった子がいることに気が付いた。
「日吉くん、久しぶり。なんかおっきくなったね?」
「…どうも。成長期ですからね」
「あとなんか雰囲気変わったね。なんか…強そう?」
「なんすかそれ…強『そう』って…」
日吉くんの前髪がさらさらと動いて、綺麗な細眉がきゅっと形を歪めた。
不機嫌そうな顔に一瞬なったけれど、すぐに目に優しさがともった。
これまでの数々の失言で、彼は私の言葉には慣れているようだった。
「ごめん…きっと強くなったんだね。そういう雰囲気が出てる」
「…そうですか。それは、どうも」
言葉少なに日吉くんは返事するけれど、声色で彼が素直に感謝の意を表してくれているのが分かった。
面と向かって、それも周囲に多数の人間(そのうちのほとんどは同じテニス部の人間)のいる中褒められたのが気恥ずかしかったのだろう。
日吉くんはすぐにそっぽを向いてそれ以上話しかけてこないで欲しい、と言外に訴えていた。
「お取込み中申し訳ないのですが―、通路を塞がないでもらえますかね」
耳に残る独特のイントネーションのした方を振り向くと、木手くんと比嘉中の面々が私達の後ろで立っていた。
「また、あなたですか…あなた、人の進路を妨害する趣味でもあるのですか?」
眼鏡を長い指で押し上げて、木手くんは私を見下ろしながら言った。
怒っているというよりは呆れているのだろう、木手くんに吐き出された息がそう語っていた。
「ごめんね、邪魔になってるの気が付いてなかった」
小さく頭を下げ謝ると、それを制するように跡部くんが声を発した。
「美鈴、簡単に頭下げんじゃねぇ。お前こいつらに舐められちまうぞ」
「でも邪魔になってたのは事実だし―」
「それに一言余計なんだよ、木手。邪魔なら邪魔とだけ言えばいいものを」
跡部くんらしくない、ピリピリとした雰囲気に少し戸惑ってしまう。
私の知っているいつもの彼ならこのくらいの嫌味なんて軽く受け流してしまうのに。
「この人は先ほども似たようなことをやってくれましたからね。ただそれを指摘しただけですが?」
「テメェ、それが余計だって言ってんだろうが」