第2章 嵐をよぶ女
「俺、山吹中3年の千石清純。おねーさんのお名前は?」
「わ、私は如月美鈴…」
「美鈴ちゃんかー!可愛い名前だねぇ」
懐っこい声で経った今会ったばかりの私の名前を、慣れた様子で呼ぶ千石くんにつられて笑ってしまう。
ナンパな感じはするけれど、そこは中学生だからか、いやらしさはあまり感じられなかった。
…私がそういう目で彼を見ていないからかもしれないけれど。
「美鈴ちゃん、この後の立食パーティーにも行くよね?よかったら一緒に行かない?」
「あ、うん…いいよ、一緒に行こっか」
「マジ?!嬉しぃ~!今日は最高にラッキーな日だぁ!!」
「大げさだなぁ、千石くんは」
でも不思議と悪い気はしなかった。
純粋にはしゃぐ千石くんの姿が、私がすでに失くしてしまったものを思い起こさせるようで、目の前の彼をほほえましい目で見つめていた。
デッキから船内へと戻り、パーティーの開かれる大広間へと千石くんと共に向かう。
その途中、向いから見知った顔がやってきた。
「おい、美鈴。その男には気をつけろ、そいつかなりナンパな奴だからな」
美しく整えられた髪の毛に、艶やかな唇、色気の漂う泣きボクロ。
不遜な態度は相変わらずの、跡部景吾だった。
「ちょっと跡部くん、美鈴『さん』くらいつけなさいよ、『さん』くらい」
「あーん?今更だろ」
ハンっと鼻で笑う姿が妙に様になっていて腹が立つ。
「えっ、美鈴ちゃん、跡部くんと知り合いなの?!」
「あー、まあね」
「ええっ、しかも跡部くんが呼び捨てしちゃうような関係なの?!」
「え、いや、それはあの子が勝手に呼び捨てしてるだけで深い意味は…」
「ハッ、そうだ千石。お前の遠く及ばない深い関係だ」
跡部くんは人をおちょくるのがお好きなようだ。
けれど意味もなくおちょくるのはやめていただきたい。
その尻拭いをするのはいつだって周囲の人間だ。
「変な風に言わないの。私ね、氷帝の監督の姪なの。だから氷帝の子達とは顔なじみなのよ。それだけ」
跡部くんの胸をコツンとグーで押す。
ピクリと片眉だけあげて跡部くんが反応する。
「へぇ~そうなんだぁ。それにしても仲良さそうだねぇ…俺妬けちゃうな~」