第11章 終わりよければすべて良し
「遊びに来てくださいね、沖縄。案内したいところがたくさんある。もちろん、俺もそちらに行きます」
「うん、絶対に行く。いっぱい会いに行く。嫌っていうほど会いに行く」
「…ふふっ、楽しみにしています」
知らず知らずのうちに詰められていた距離は、私からだったのか木手くんからだったのか。
お互いの吐息もかかるくらい狭まった二人の距離はゆっくりと近づいて、柔らかな感触とともに限界まで近づいた。
触れるだけのキスから、それは次第にお互いの奥まで求め合うような激しいものになり。
頭の奥が痺れるような感覚に、私はただ身をゆだねた。
名残惜しそうに離れていく木手くんの唇が、言葉を紡ぐ。
「…かなさんどー…」
彼の甘い言葉は風に乗って暗い海へと消えていった。
残念なことに、私には彼の言葉の意味が、その時は分からなかった。
けれどきっとそれは素敵な言葉だと、そう思った。
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何事も始まりは気が重いもので、けれどいざ終わってしまえばあっという間だと思ってしまうことが多い。
私が経験したこの夏の5日間もそうだった。
この非日常がいつまでも続くようなそんな錯覚を、島に姿を現した迎えに来た大きな船が打ち壊す。
ここを離れる、彼と離れる。
昨日の夜あんなに覚悟を決めたはずなのに、胸に押し寄せるものに抗えないでいた。
笑ってお別れをするのだ、と昨晩ベッドの中で決意したでしょう――心の中で自分を叱咤激励する。
一生の別れじゃない、遠く離れてしまっても、彼と繋がる手段はいくらでもある。
「探しましたよ、美鈴さん」
私の前に現れた木手くんが肩で息をしている。
普段そんな様子をあまり目にしたことはなく、どれだけ彼が必死で私を探していたのかが分かった。
「ごめん、最後にもう一度見ておきたくて」
言って視線を彼から眼前に大きく広がる青い海へと移す。
ぬくもりが伝わるほど近くに来た木手くんが後ろからぎゅっと私を抱きすくめる。
ふわりと風にのってコロンの甘い香りが鼻をくすぐる。
その香りを染み込ませるように、木手くんは抱きしめる腕にさらに力をこめる。
2人とも無言のまま、身動き一つできずにいた。
何か言葉を発してしまえば、目前に迫った別れという現実に近づきそうで、何も言えない。