第11章 終わりよければすべて良し
「やはり、よく似合いますね。大変美しい」
そっと私の胸にかかる髪の毛の束をいくつかつかんで、彼はそれを自分の口元に運ぶ。
優しい口づけが髪を通して私の血流の勢いを増す。
眼鏡の奥に光る彼の優しく愛しげな目から意識をそらせないでいた。
「……ハイビスカスの、花言葉を知っていますか?」
「…ううん、知らない」
花言葉、なんて乙女チックな言葉が彼から飛び出してきてクスリと笑ってしまう。
そんな私を見て彼の眉根が恥ずかしそうに少し下がる。
一度私の胸元で揺れるオレンジ色に目を落として、木手くんはゆっくりと顔を上げた。
「『勇敢』『常に新しい美』『華やか』………『新しい恋』」
すらすらと木手くんはいくつもの花言葉を口にする。
どれもあなたに似合いの言葉だ、と彼は照れることなくまっすぐと私に言葉を放つ。
「それと……」
「?まだ他にもあるの?」
「………あとは、ご自分で調べてもらえますか」
「ええ~、そこまで言いかけてそれはないよ~」
ふくれっ面で言う私に木手くんはからからと笑った。
彼が言い淀んだその先の花言葉は、きっと悪い意味のものじゃない。
けれど皆目見当のつかないその言葉に思いをめぐらせるも、ふいに静寂をやぶる大きな音がする。
ドン、という大きな音がして、夜空に大輪の花が咲く。
花火は一瞬にしてあたりの闇を晴らし、木手くんの顔まで明るく照らす。
「あ…綺麗だね…」
「そうですね…」
しばらくの間、二人は無言で次々と夜空に打ち上げられる花火を見つめていた。
このまま時が止まってしまえばいいのに。
子供みたいなことを考えながら、そっと木手くんの手に触れると。
一瞬だけぴくり、と動いた彼の手はゆっくりと私の手を包み込んだ。
「…明日、帰るんですよね」
「そう、だね」
事実だけれど言葉にしてしまうと余計に現実味を帯びてきて、胸が苦しくなる。
離れたくない。こんなにすぐに遠くに行きたくはない。
けれどそれは言葉にしたって現実にはならなくて、言うだけ空しさが広がるだけの言葉。
ぐっと飲みこんで胸の奥にしまいこむ。