第11章 終わりよければすべて良し
低く唸るような船の汽笛が合図になり、木手くんの腕がゆるめられた。
木手くんの方に向き直った私に何か言おうと彼が口を開きかけた時、バタバタと騒がしい足音がこちらへ駆け寄って来る。
「如月さん!船出発してまうんど~!ほれ、りかりか!(早く早く)」
「永四郎、あんまり人目つくとこでベタベタさんけ。こっちがはじかさー(恥ずかしい)」
「じゅんにやさー(本当だよ)」
ケラケラと太陽のように明るい甲斐くんと平古場くんの笑い声が抜けるような青空に響いた。
2人に急かされて船へと皆で急ぐ。
繋がれた力強い二つの手の中には木手くんのものは含まれておらず、2人の勢いに気を逸してしまった木手くんは忌々しそうな顔で甲斐くんと平古場くんを見ていた。
そんな感情を隠す様子のない彼に私は嬉しくなって笑いかけてしまう。
私の微笑みに気が付いた木手くんは複雑な顔をしながら私達の隣を走る。
「あっ、そうそう、コレ」
船着き場に着いて、木手くんに背を向けてこっそり押し付けるように甲斐くんと平古場くんが渡してきたのは、数字とアルファベットが書かれた小さな紙切れだった。
受け取ってそれを眺め、彼らの携帯番号とメールアドレスだということに気付く。
「…2人とも、俺の目の前で彼女に連絡先を渡すなんていい度胸をしていますね」
「あいっ、バレた!」
あとでゴーヤーですね、と地の底から響くような低い声で木手くんが脅す。
それに怯える甲斐くんと平古場くんを見て、今まで何度も見てきたその光景の中に、もう私はいられないのだと寂しくなった。
けれど普段通りのその様子に優しい気持ちになったのも事実で。
「みんな、ありがとう。最後まで。おかげで泣かないでお別れできそうだよ」
甲斐くんと平古場くんが精一杯気を使ってくれているのが分かった。
さわやかなこの青空の下、泣き顔でさよならを言うのは似合わない。
にっこりと笑って、3人に別れを告げる。
それに応えるように、甲斐くんと平古場くんが満面の笑みを浮かべて大きく手を振る。
傍らの木手くんは薄く笑みを浮かべ腕組みをしたまま私を見送るつもりのようだ。
「かんなじ(絶対)遊びに来いよー!」
「待ってるやぁ!」