第11章 終わりよければすべて良し
「如月さん、こっちこっち!絶対よく見えるって!」
パーティーの後、跡部くんが準備した花火が打ち上げられることになった。
特等席を探しておいた!と満面の笑みで甲斐くんと平古場くんが有無を言わさず私をどこかへ引っ張って行く。
あたりはすでに真っ暗で夜目の効かない私は暗闇をずんずん進む彼らについていくので精一杯だった。
彼らに連れて行かれた先は、あの入り江だった。
「如月さん、ここでちょっと待ってて!忘れ物した!」
「わんも!」
バタバタと大きな足音をたてて、甲斐くんと平古場くんは嵐のように走り去って行った。
1人取り残された私は仕方なく岩場に腰を下ろし、月が顔を出して明るくなった空を見上げた。
目の前に広がる海が奏でる波の音は、どこか懐かしい。
この音ともしばらくお別れなのかと思うと、こみ上げてくるものがある。
ジャリジャリと砂を踏むような音が聞こえ、二人が帰ってきたのだと音のした方に声をかける。
「もう、遅かったね――…き、木手くん?」
「お待たせしました、美鈴さん」
2人の代わりに現れたのは、いつものように髪をきっちりとまとめた木手くんの姿だった。
ふわりと香る甘いコロンの匂いが私を彼の元へ誘うようにあたりに漂う。
彼の右手の赤いハイビスカスが暗闇の中でやけに鮮やかな色を放っている。
「甲斐くんと平古場くんは…?」
「…こんな時に、他の男の名を呼ばないでもらえますか、美鈴さん」
「…ごめん」
はぁ、とため息を一つついて、木手くんは困ったような顔で笑う。
彼はゆっくりとした動作で岩場に上り、私の隣へ静かに腰をおろす。
少し湿り気を帯びた海風が頬を優しくなでていく。
私の長い髪を梳くようにいくつか風が通り過ぎていく。
「少しじっとしていてもらえますか?」
言い置いて木手くんはそっと髪を一撫でし、私の髪を耳にかけて、手にしていたハイビスカスの花をそっと耳に添えた。
花をつけた私を見て、彼は満面の笑みを浮かべた。
月に照らされたその笑顔があまりにも美しくて、私は思わず息をのんだ。