第8章 声を聴かせて〜NJ〜 3
「どうしたの。また喧嘩、した?」
深い息を吐いた後そう言ったニノの背中は、やっぱり少し小さくなったように見えて…
堪らなくなって、その肩から腕を回してニノを抱き締めた。
やっぱり腕を回したその体は少し薄くなっていて…
「聞いて欲しいのは、俺とニノの事だよ」
「Jと、俺の事?」
身動きもせずに発せられたニノの声は硬いもので…
「そう、俺たち二人の事」
「俺とJにはさ、二人の会話なんてないよ?そこには常に翔さんがいるんだから」
「いないよ」
「ハハッ」
即答した俺に、ニノが肩を揺らして笑う。
でも…触れているから、分かる。
その肩は強張っていて、その笑い声もまるで半分泣いているような声で…
「今、俺の中にいるには、ニノだから」
「へぇ、面白い冗談だね。またあの人彼女でも作ったの?」
「だから、違うって。しょーくんは関係ない。俺が、ただニノをす」
「やめてよ」
俺の言葉を、冷静なニノの声が遮った。
「あんだけ翔さんが好きだったじゃん。どれだけ酷い扱いされても、どれだけ都合いいセフレ扱いされても、俺がどれだけ翔さんを酷いって言っても庇って…その目には翔さんしか映ってなかったじゃん。なのに、もうその心にその存在はないって?何それ、そんな都合いい事信じられる訳ないじゃん」
「そ、れは…」
「もしJが俺を…好きだって言ったって…じゃあ、同じ様にその心も変わるんじゃない?そんな想い…信じらんないよ」
確かに…
ニノの言う通りだった。
翔君に捨てられる度にニノに泣きついて、でも、ニノに翔君を悪く言われると反論して、どんな翔君でも好きなんだって泣いて。
そう…
あの頃の俺は、本当に翔君が好きだったから。
何をされても許してしまうぐらい、また戻ってきてくれる事を信じて待ってしまうぐらい。
そんな俺を知っているニノから見たら
ニノが好き
って言われたって
どの口が?
って思って…当然だ。
翔君を好きだった自分を否定する気は無いけど…
でも…じゃあ、どうすればこの想いをニノに届けられるんだろう。
どうすれば、信じて貰えるんだろう。
いや…
そもそもニノ自身、こんな想いを届けられたって迷惑かもしれない。
それでも…もう一度その声で
潤くん
って…呼んで欲しいんだ。