第6章 I miss you〜SJ〜 3
「マネージャーには、強がり言ったけど、後悔してたから…ありがと」
「じゃあ…よかった」
その声は、水分を取ったからか、はじめに聞いたガラガラ声ではなくなっていて、ホッとしながら額にかかった前髪をゆっくり横に流した。
無意識にそうしてから、この動作も既に別れた相手にするにはやり過ぎの動きだって気付いて…
でも、慌てて引っ込めたら、自分が意識している事が翔君に伝わってしまうと思い、不自然にならない程度にゆっくりその手を引こうとした時…
「なんか…いいな」
「え?」
「そうやっておまえの手が触れるだけで、楽になる気が、する…」
そう言って目を瞑った翔君は、来た時よりはかなり楽そうで…
「手当てって言うから…ね。しょーくんが楽になるなら、眠るまで、こうやってるから…もう、寝て?」
「でも…これは、夢なんだろ?目が醒めたら…お前はいなくて…寝たら…消えるんだろ」
「しょーくん…」
瞑ったままの目から、涙がポロリと溢れた。
出会ってからこれまで…
仕事とかは別として、別れを告げたあの時ですら、翔君の涙なんて見た事がなかった。
熱に弱っているだけだとしても、その翔君の弱った声に胸が苦しくなって…
眉間に寄ったシワにそっと口付けた。
「ここにいるから…俺は、ちゃんといるから…だから…ね、安心して…寝て?」
布団の中から伸びて来た手を握りしめて、その手にも唇を押し当てる。
「雨は…きらいだ」
静かになった部屋に響く、窓を叩く雨音。
雨が嫌いって…それは…
「また、お前が…どこかへ行ってしまう…雨がお前を隠して…見失って、しまう」
「しょーくん…」
あの日も…雨が降っていた。
雨の中飛び出した俺を…
翔君は、追いかけてくれたの?
「もう…逃げないから…だから…ね…」
「ん…」
今でも翔君が好きだって言葉が溢れそうになるけど…
でも、こんな風に正常な判断をできない状態の翔君にそれを告げるのは卑怯だと思うから。
だから、早くその熱が去る事を願って、強くその手を握りしめた。
俺が弱くて…幼くて…大好きなのに、逃げて…
もう逃げないから…だから…もう一度だけ、あの雨の日を、やり直させて。