第4章 I miss you〜SJ〜
「潤くん、どうしたの?って…翔さん?」
自分の足の間に顔を埋めて、玄関の上り口に座り込んでいた人が、俺たちの声にゆっくりと顔を上げ…
俺の後ろにあるニノの姿を認めて、ゆっくりと立ち上がった。
「あの…お、れ…ニノんち、行ってて…だから…」
「…悪い、勝手に入って。ただ…これ、返しにきただけだから」
「え…しょーくん…」
差し出されたのは、マンションのロックキーと、この部屋の鍵。
それは、俺たちがまだ付き合っていた頃に渡したもので…
別れてからも翔君から返されていなかった…俺たちを繋ぐ最後の砦、だった。
(ふふふ…この鍵で、いつもで来てね)
そう言った時の俺は…どんな顔で笑っていたんだろう。
「ごめん、ニノ。マジで、何でもないから、気にすんなよ。じゃあ」
俺の事は見ずにニノに軽く笑うと玄関横の鍵置き場に鍵を置いて、翔君は俺とニノを押しのけて出て行こうとした。
「翔さん、外雨だし、送ってくよ」
「いや、大丈夫。俺も車だから」
その背中にニノがかけた声に振り向きもせずに手だけ振って、翔君は足早に帰って行った。
「潤くん…」
「…なに?」
「ごめん、トイレ」
今ニノに何を聞かれても答えられないって思って身構えたら、ニノはそれだけ言って、トイレへと駆けて行った。
俺は…
その姿が消えた廊下をもう一度眺めた後、静かに玄関のドアを閉めた。
そして、目に入った、あの頃お揃いで買ったキーホルダーがついたままの鍵を見て…
玄関のドアを開けてその背中を追いかけたい衝動に駆られてギュッと目を閉じた。
こんな風にニノと帰ってきて…
この関係を誤解されたかもしれない。
いや…
そもそも、誤解でもなんでも、ない。
実際に、未だに体の奥が痺れる程…ついさっきまで、ニノと抱き合っていたんだから。
翔君を忘れるためだって逃げたって…
ただただ快楽を求めた行為は、何の言い訳にもならない。
今翔君を追いかけたところで…
俺が言える事は、何もないんだ。