第3章 声を聴かせて〜NJ〜 2
「ニノ…あのさ、俺、聞いてほしい事が、あって…」
「…何でしょう」
手にしたシガレットケースを弄りながら、ニノは一刻も早く戻りたいという空気を隠しもせず、でもその笑顔は崩さないまま、俺に向き直った。
「いや…ここでは…」
「こんな奥、誰も来ないし。いいって、別に気を使わなくても。俺もそんな鈍感じゃないしさ。良かったじゃん、また戻ってきて」
「え…?」
ニノの顔に張り付いていた笑顔が消え、弄んでいたシガレットケースから一本タバコを取り出すと、再びそれに火を点けた。
「元々、そういう約束だったでしょ?本命が戻ってきたなら、良かったじゃん。だから俺に気を使う必要は、ないから」
「ニノ、何言って」
「だから、もういいって」
大きな声で俺の言葉を遮ったニノが、苛立った様に自分の頭をガリガリっと掻きむしりながら俺に背中を向けた。
暫くはニノが煙を吐き出す音だけが響き…
「……ごめん、また聞ける様になったら、聞くから、さ…まだ今は勘弁してくれる?」
長い沈黙の後、タバコを消してそう言いながら振り返ったニノの顔には、またあの完璧な笑顔が浮かんでいた。
ニノが言っているのは…きっと翔君との事で…
また俺と翔君がよりを戻したと思ってる?
確かに、今日の楽屋での翔君の俺への距離は近かったけど…
でもプレゼントなんて俺たちの間では日常茶飯事だし…
「ニノ…誤解だよ」
「誤解?」
「俺と…しょーくんの事、でしょ?別に何もないから。さっきのだって、あのハチミツ、しょーくんはあまり好きじゃないから…だし」
俺の言葉に、ニノの笑顔が歪む。
「誤解…ね…。だから、もう気にしなくていい、って言ったじゃん。あの日…俺の誘いを断った日、会ってたんでしょ?」
「あの日は…」
「コーくんと飲んでたんだっけ?俺もね…コーくんに誘われて、一緒に飲んでたんだ」
ゆっくり告げられたニノの言葉に、一瞬頭の中が真っ白になる。
怒るわけでもなく…悲しむわけでもなく…
感情を映さない、ただ仮面を貼り付けているだけの…今まで一度も向けられた事のない様なニノの笑顔。
笑っているけど、心からは笑っていないっていうその顔に、俺の心もどんどん冷えていく。
でも…嘘を吐いたのは…俺で…だから…