第3章 声を聴かせて〜NJ〜 2
「ご、めん…」
「だから、何で謝るの?謝る必要、ないじゃん。何も悪いことしてないし、元々そういう約束だったわけなんだし。だから…謝る必要もないし、俺に気を使う必要もない。また…たくさん会えたら、いいね」
「いや…でもニノ、違うんだ」
「もういいって。てか、そもそも、俺たちは、何もないでしょ?俺たちの間には、何も。だから、いいんだって」
「良くな」
「いいんだって!俺にしたら、って簡単に言った俺が間違ってただけで、人の心なんてそんな単純なもんじゃないし、好きなら諦められなくて当然だし、その人と一緒にいるチャンスがあるなら、たとえそれが周りから見たらどれだけ馬鹿な関係だろうと、やめといた方がいいって思う関係でも、やめられないのは当たり前だし。だからもうね、やめよう、謝るとかそういうの。好きに生きよう。それが一番だって」
早口でそうまくし立てて、それにも言い返そうとした俺の口をニノはその手で塞いだ。
「ね?お願い。今は、何も聞きたくないの。今までずっと、ちゃんと、潤くんの想い、聞いてきたでしょ?だから…今は少しだけ、休ませて?それでまた、ちゃんと聞けるニノちゃんになって帰って来るから、さ…お願い」
その顔にあったのは、ずっと張り付いていた仮面の笑顔じゃなく、泣き出す寸前の子どもの様な表情で…
その顔をどうにかしてあげたくて…でも何をどうしたらいいか分からなくて…
口を塞がれた分近付いた距離を詰めようとしたその瞬間…
「ニノ、松潤、時間だぞ」
「ありがと、大野さん」
いつの間にかそこにいた大野さんの言葉に、とっくにそれに気付いていたかの様にニノは俺からスッと離れ、大野さんの側へと歩み寄る。
まるで寄りかからんばかりの距離に寄ったニノに動じる事もなく、大野さんは俺を顎でしゃくると楽屋への道へ、もたれ掛かってきたニノの腰に手を回して、引き返して行った。
翔君が来なくて良かったけど…
でも、その後ろ姿を見て、モヤモヤとした感情が心を渦巻く。
ニノの居場所を知っていた大野さん。
今日楽屋に入ってきた時も、今も、大野さんに甘えるニノ。
俺にとってのニノの様に、ニノにとっての自分がなれない事に胸が苦しくて…
どうすればいいか分からなくて…
ひとりで楽屋に引き返しながら、ギュッと胸を掴んだ。