第3章 声を聴かせて〜NJ〜 2
出て行ったニノを探そうと思って…
でも、こんな時、ニノはどこに行くかなんて皆目見当も付かなくて…
その事実に、また新たに気付いた事があった。
今まで…
俺がこんな風に楽屋を飛び出した時、どこにいたってニノは探し出して、そして俺に寄り添ってくれた。
でも…
俺は、ニノの事を何も知らない。
ただただずっとずっと…
ニノの優しさに甘えてきただけだったんだ。
それ以前に…
俺は追いかけて来てくれるニノを、心のどこかで待つ様になっていたけど…
ニノは、俺が追いかける事なんて…望んでいないかもしれない。
それでも…
「ニノなら、多分二階の奥にいるよ」
探す場所にも、探す事にも迷って楽屋の前で立ち尽くしていた俺に、背後から声がかかった。
「リーダー…」
「美味くもないタバコ、吹かしてるんじゃねーか。早く行って、タバコの代わりに健康的なキスでもしてきてやりな」
冗談だか本気だか分からない表情でそう言うと、大野さんは再び楽屋の中に入って行った。
言われた場所は、二階の奥まったスペースにある喫煙場所。
言われるがままに行ってみたら…
本当に、そこにニノはいて、遠くを見ながら紫煙を吹かしていた。
「あの…ニノ…」
暫く躊躇した後その後ろ姿に声をかけてみたけど、その頭は動かなくて…
それでも勇気を出してその隣りに腰をおろしたら、ニノは咥えていたタバコを灰皿に押し当てた。
「タバコ…やめたと思ってた」
「……嫌いでしょ。だから吸わなかっただけ」
沈黙に耐えられず探し出したのはそんな言葉で…
ニノはシガレットケースにタバコとライター直しながら、やっぱり俺を見ずに早口でそう言って立ち上がった。
そう…だった。
舞台で俺が喉を壊して…
自分で吸うだけじゃなく、吸う環境も避ける様になった時期から、ニノがタバコを吸う場面を見る事がなくなった。
二人で会う時も吸ってなかったし…
キスする様になってからも、その口から味がする事は、なかったから。
「こんなとこにいたら、喉に悪いよ」
「いや…でも…」
「楽屋、戻りましょ」
そう言って向けられたのは、完璧な笑顔。
でも…
これだけ一緒にいたら、分かる。
その笑顔は
完璧な営業の笑顔
って事ぐらい。
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