第1章 冷たい手【巻島裕介】
「ゆうす、、、」
気がついたら大切な自転車ほっぽり出して、美月を抱きしめていた。
「美月、俺、、、」
そんなの嫌だ。
お前が俺の知らない所で知らない人達と会って。
知らない男と、、、。
、、、今しかない。
ずっと好きだったことを伝えるのなら。
伝えて、君を俺のものにできたなら。
そんな未来はやってこない。
「裕介、、、苦しい」
腕の中で美月が呻いた。
その声でハッと我に返った。
「ごめん、、、」
「一体どうしたの?」
心配そうに俺を見上げる美月の体をできるだけそっと離した。
「、、、ハッ!ただの立ちくらみッショ!」
俺は何を考えてんだ。
そんなのは全部俺の都合で美月には関係ない。
もしも、もしも美月も俺と同じ気持ちでうまくいったとして、どうするッショ。
「そう?部活頑張りすぎじゃない?」
こんなに優しい美月を置いて、俺はイギリスへ行くのに。
その間、美月はきっと寂しい思いをするのに。
そんな思いをするのは俺だけで充分だろ?
それにそもそも美月が俺を好きかどうかも怪しいんだ。
振られて気まずい思いをするくらいなら、せめてイギリスへ行ってもたまに連絡を取れる関係の方がまだ、、、。
「もう大丈夫ッショ!」
俺は自転車を起こしながら笑った。
そうだ。
俺はせめて君の幸せを。
君がこれから先も毎日明るく笑えるように、
遠くからでも君を見守り続けよう。
そしてこれ以上、君を好きにならないようにすると誓ったんだ。