第1章 冷たい手【巻島裕介】
美月との歩幅が変わってきたのは高2の秋頃。
「裕介、大学はどうするんだ?」
たまたまイギリスから帰ってきていた兄貴と夕食を食べていた時だった。
「大学?まだちゃんとは考えてないけど、、、」
そう答えると兄貴はニッコリと笑った。
「だったらさ、イギリスに来て俺の仕事を手伝いながら大学に通うのはどうだ?ちょうど、お前に頼みたい仕事があってさ」
「え、、、?」
「いいじゃない!それ!」
「そうだな。裕介も早く仕事を覚えていた方がいい」
「だろ?俺、すげー良いこと言うでしょ?来年の9月、部屋を用意して待ってるからな」
呆然とする俺を置いて話はどんどん進んで。
嫌、、、ではなかった。
むしろ兄貴の仕事に興味はあったし、親父や兄貴がしてきたように、いつかは俺もって思ってたから。
だけど、それはまだ訪れない、いつかの話で。
「ね、裕介。進路どうする?」
次の日、何かを察知したのかそうでもないのか、君にそう聞かれたときは正直驚いた。
「えと、、、進路?」
「ホラ!今度、進路相談があるでしょ?それで3年のクラスも決まるみたいだし。裕介はどうするのかなーって」
「あー進路相談ね」
俺、イギリスに行くんだ。
、、、なーんて、言ったらどんな顔をするだろう。
「私は一応進学するつもりだよ」
ハッ!誰も聞いてないッショ笑
「裕介も進学だよね?私、裕介みたいに頭良くないから同じ所には行けないと思うけど、、、家も近いし、たまにはこうやって一緒に帰れるかな?」
バーカ。
そんなこと言ってるけど、お前に彼氏ができたりしても俺と帰ってくれるのか?
「受験は嫌だけど大学は楽しみだよね!どんなサークルに入ろうかな!裕介はもちろん自転車だよね?」
サークルなんかに入ったら、きっとすぐに彼氏ができるんだろうな。
お前は人気者だから。
「ねぇ、裕介?聞いてる?」
そんな顔で見るなッショ。
お前は自分が可愛いのをもっと自覚しないと、大学に入って酷い目に合うショ。
目の前には不思議そうな顔をした美月。
自分で考えておきながら俺は拳を強く握った。