第3章 秘密の花園【東堂尽八】✳︎リクエスト作品✳︎
「東堂くん、やめてっ!こんなのっ、、、こんなの東堂くんじゃないよっ!!!」
目を瞑り、耳を塞いで、拳をふりかざした時、その叫びは俺の中に無理やりに、だが真っ直ぐ入ってきた。
俺、、、?俺とは何だ?
ハッと我に帰ってその声の方向を見やると、笹原さんが涙を零しながら俺を見ていた。
その表情は恐怖に怯えていたかと思うと、次の瞬間悲しそうに歪んだ。
「ごめんなさい。私のせいで、そんな顔させちゃったね」
違う。謝りたいのは俺の方だ。
君にそんな顔をさせたいわけじゃなかったんだ。
俺は、ただ君が穏やかに笑えるようにしたくて。
ギュッと抱きしめられて感じる彼女の柔らかさと温かさに、ゆっくりと自分の身体の力が抜けていくのが分かった。
俺はいつの間にこんなに力んでいたんだろう。
「東堂くん、いつもあんなに嬉しそうに練習に行くじゃない。部活の人たちのこと、いつだって嬉しそうに話してくれるじゃない。だから、どうでもいいなんて、お願いだから言わないで、、、?」
そうだ、俺はいつだって自転車が、アイツらのことが大切だった。
どんなに福が無愛想でも。
どんなに荒北が失礼極まりなくても。
どんなに新開が同じ物ばかり食べていたとしても。
君がいつだって最高の笑顔を見せてくれたから。
俺は自分がどれだけ幸せ者であるのかを自覚して。
「心配してくれてありがとう、、、私、本当に大丈夫だから」
君との時間は楽しくて
、、、楽しくて。
この軽口はどんどんスピードに乗って。
「私もうすぐ転校するの。だから、そんな私のために、自分に嘘なんて付いたらダメだよ?そんなの東堂くんらしくないよ?」
「、、、俺、らしく、、、?」
そうだ。俺は誓ったのだ。
俺は離れがたい彼女の身体をできるだけそっと自分から離して、その潤んだ瞳を真っ直ぐ見た。
「俺が、、、俺がもっとも俺らしくいられたのは、あの裏庭で君と話している時だった」
馬鹿だな。
そんなことを忘れるほどに頭に血が昇るなんて。
「走り方を忘れてしまい沈んでいたこの俺を、癒してすくい上げてくれたのは君だった」
こんなやり方では君がしてくれたようにはできまい。
このままでは誰も救えまい。
「そんなこの世でもっとも大切な愛する女性に犠牲を強いるような俺は、、、」