第1章 冷たい手【巻島裕介】
「よぉ、金城」
「巻島。こっちに来るなんて久しぶりだな」
1人弁当を食べる背中に声をかけると金城が笑顔で振り向いた。
その言葉通り、この教室に来るのは本当に久しぶりだった。
その手には部の練習スケジュールがびっしりと書かれたノートがある。
何というか、さすが金城笑
「美月、、、いや笹原に弁当届けてたショ」
危ね、、、いつもの癖で名前で呼ぶとこだったっショ。
「そうか。今年のインターハイも笹原さんは見にくるのか?」
しかし金城は特段気にした様子もなく、いつも通り冷静に尋ねてきた。
この男が冷静さを欠くことなんてあるのか?笑
ふとそんなコトを考えた。
一度レースに誘ってから美月が毎回と言っていいほど応援に来ていることを金城は知っていた。
「今年は、、、どうだかな、、、」
そう答えるしかなかった。
だって今回のインターハイ、俺は美月に声をかけていなかったから。
「?」
いつもと違う答えに金城が不思議そうな顔をしている。
これは、、、まずい。なんとかごまかさねぇとっショ!
「そ!そういえば、一ノ瀬さんから伝言があったんショ。今度遊びにいこうってさ!!」
「ッ!」
それを聞いた途端、頬を紅潮させて固まる金城。
ああ笑
この男が冷静さを欠くことってのはコレか。
すまねぇ、けど少なくともインハイが終わるまでは誰にも言わないって決めてんだ。
美月を除いて、、、。
「じゃ、じゃあ俺はもう教室に戻るショ」
硬直する金城に手を振り、自分の教室へ向かった。
その様子を美月が見ているのに気づいていたが、わざと気づかないフリをした。
「フゥー、、、」
廊下に出て一息つく。
そして先ほど美月に声をかける際、肩を叩いた右手を眺めた。
痛そうに足を押さえてうずくまる小さな背中。
何かにぶつけたりでもしたのだろう。
可哀相なのに思わず笑ってしまった。
、、、思わず触ってしまった。
昔からそうやって君は
あまりに簡単にそして無意識に
俺の中に入ってきて。
もう近づかないと固く誓った心さえ
3日も経たずに揺るがして、
君はずるい。
そして
そんな全部を君のせいにして
一向に君からの距離を
取ろうとしないこんな俺は
もっともっとずるいと思った。