第1章 冷たい手【巻島裕介】
あ、、、ヤバ、、、
ドクンという音とともに体中を大量の血が流れるのがわかった。
「もっ!もう!!だから裕介の手は冷たいから触らないでって言ってるじゃん!」
慌てて裕介の手を振り払い、熱くなった頬を手で抑えた。
「なんか顔が赤いっショ?」
そう言って裕介が私の顔を覗き込んで、頬に手を添える。
「う、、、うるさい!赤くない!!ってかホント冷たいっ!!!」
もー!!そんなことされたら余計に赤くなるじゃん!
「ハッ!悪ィ!」
裕介はサッと手を離してニヤリと笑った。
膨れる私を見て、面白がっているようだ。
全く、本当にイジワルなんだから。
微笑みながら前を見て歩く裕介の横顔を見上げて、私は思った。
裕介は昔から人付き合いがあまり得意ではない。
学校では見た目の異質さからイジメられることこそなかったものの、大人しい彼が話すのは私くらいなもので。
そんな彼が高校に入って運動部に入ると聞いた時は正直やっていけないんじゃないかと思った。
案の定、入部当初は先輩となかなかうまくいかず悩んだりもしてた。
けれど、、、2年生になって初めて裕介にレースを見に来てほしいと言われて見に行った時、私は驚いた。
金城くんと田所くんと楽しそうに走る彼。
白い自転車に乗った彼はあっという間に私の目の前を駆け抜けて、その背中はどんどん小さくなって、、、。
私は嬉しい反面、彼が遠くへ行ったような気がしたんだ。
それでも彼はこうして毎日私と一緒に帰ってくれる。
あんなに速く走れる道具を持ちながら、少しでも彼といたくてワザとトボトボと歩く私の隣を、彼もトボトボと歩いてくれる。
文句の1つも言わずにだ。
そんなんだから私は浮かれて、期待して。
今すぐじゃなくていい。
そのいつかは、いつかきっとやってきて。
「なぁ、美月。実は俺、、、」
そう彼が切り出した時も信じていた。
「ん?」
このままずっと一緒にいられるものだって。
それなのに、、、
「イギリスに行く、、、」
彼の言葉に私はその場をしばらく動くことができなかった。