第2章 幸せ者【御堂筋翔】
「、、、。」
このまま君の手を引いて、強引にでもどこかへ連れて行ってしまおか。
ユキちゃんの笑顔を見ているうちに、そんな自己中心的な考えが一瞬頭をよぎった。
ケドすぐに現実を思い出して、ふっと肩の力を抜いた。
アホらし、、、。
そもそも人を好きになるなんて僕らしくないやろ?
友情?愛?
アホらしい。
そんなもんは無駄や言うて切り捨ててきたはずや。
僕にはこれさえあればええ。
そうやって1人で走ってきたはずや。
僕は触り慣れた感触をギュッと握り直して、元来た道を引き返しかけた時、視界の端っこで男がユキちゃんのほっぺをムギュと掴んだ。
「、、、はー?」
思わずあんぐりと開いた口と、漏れた声。
今にもくっつきそうな鼻と鼻に、僕の足はゆっくりと向き直った。
平気やった。
1人でも。
『翔兄ちゃん、遊ぼ?』
君がそうやっていつも隣にいてくれたから。
『御堂筋ってスポーツ選手になりたいんやて〜』
『アホちゃう?運動でけへんくせに何言ってんねん』
誰に何を言われても、どう思われても、平気やった。
『何言ってんねんはそっちや!翔兄ちゃんは速いんやから!ホンマにホンマに速いんやから!!』
君がそうやって泣いてくれたから。
『なぁあの人の走り方気持ち悪ない?』
『何あれ〜ちょっと怖いんやけど』
そんなこと言われても、何もかも切り捨てて走れてこれたんは、
『翔兄ちゃーん!!頑張れー!!』
君がそうやって叫んでくれたから。
「渡してたまるか、、、ボケェ」
僕は一歩踏み出した。