第2章 幸せ者【御堂筋翔】
「、、、っくぅー、そうやんなぁ、、」
安本はしゃがみこんだ。
「あ、あの、安本?」
しかしすぐに立ち上がって笑った。
「いや、ええねん!大丈夫!分かってたし」
「は、、、?」
「いや、知ってたんよ。ユキちゃんの好きな人って、御堂筋さんやろ?」
「えぇ!?」
いや、、、あの何で!?
友達にも言ったことないんやけど!!
「な、何で!?」
「一緒に帰ってるとこ見た。あ〜!あんな風にユキちゃんと帰りたかった!!」
「、、、っ」
「俺な、スポーツ全般好きやから色んなインターハイとか見に行くんやけど、今年初めて自転車部のインターハイも見に行ってん。そんで見た、御堂筋さんのこと」
「、、、」
「あの人、めっちゃすごいよな。あんな速い人初めて見たわ〜」
そう、、、
「聞いたで。お義兄さんなんやろ?カッコええよな。1人だけズバ抜けとった」
「そうなんよ!!めっちゃ速かったやろ?翔兄ちゃんはホンマにすごいねん!」
「!」
「それに頭ええし、ちょっとイジワルなとこあるけど、ホンマは優しい人やねん!」
それに、お母ちゃん思いやしな、、、って、
ハッと我に返ると、安本は目を丸くしていた。
「あ、、、ごめん」
マズイ、引かれたかな?
けれど安本は
「はは、そういうとこが好きなんやな」
と大きな八重歯を見せて目を細めた。
その笑顔を見た瞬間、胸に突っかえていた何かがポロッと落ちた気がした。
ずっと誰にも言えへんかった。
翔兄ちゃんと遊びたくて、小さい時からひっついて、
兄ちゃんは何も言わんかったけど、帰り道いつも黙って繋いでくれた手は温かくて。
一度だけ言ったことがあった、「私、大きなったら翔兄ちゃんと結婚すんねん!」宣言は、
「ユキちゃん変なのー。兄妹で結婚できるわけないのにな」にあっけなく萎んで、私は言っちゃいけないことだったと知った。
でも大きくなるにつれて気持ちはもっとハッキリしていって。
どうしていいか分からなくなった私は、わざとあからさまにして、はしゃいで、誤魔化して。
「2人はホンマ仲良し兄妹やね〜」なーんて、言われる度に笑顔を振りまいては悲しくなって。
ずっと言えずに、このままいつか終わるんかなって。
「、、、うん、好きや」