第1章 冷たい手【巻島裕介】
ただこの件に関して陽子は全く悪くない。
だって私もこの話を聞いたのはついこの間のことなのだから。
その日私は、校門の前で裕介の部活が終わるのを待っていた。
裕介とはいわゆる幼馴染というやつで、裕介の家は近所でも有名なお金持ち。
昔からおじさんもおばさんも仕事で忙しそうで、ほとんど家にはいなかった。
そんないいお家にお生まれの裕介(たぶん頭もいい)が何故ずっと地元の公立に通っているのかはよく分からないが、小さい時からお互いの家で一緒に遊んだりもしていた。
そして昔から何となく一緒に学校へ行ったり帰ってきたりしていて、それは今も変わらない。
まぁ、高校に入って自転車競技部に入った彼は、朝は颯爽と自転車に乗って行ってしまうのだったが、帰りはこうして一緒に帰ってくれている。
どんなに疲れていても、どんなに練習が遅くなっても、その時だけは自転車から降りて私と一緒に歩いてくれるのだ。
日が沈んで辺りは薄暗くなる。
そんな中現れるヒョロっとした身体と、それとそっくりなこれまたヒョロっとした自転車のシルエットを見て、私の胸はいつも高鳴った。
「裕介!」
待っている時間は正直長い。
けれどその時間さえもこうして現れる裕介の姿を思うと私の顔は綻ぶのだ。
「いつもいつもお前は声がでかいって。もう少し声を落とすっショ、、、」
辺りをキョロキョロと見回しながら、頭をかく裕介。
私と帰ることは部員の皆には内緒らしい。
特に田所くんには知られたくないみたい笑
それに今年はウルサイ1年が入ってきたとかで、最近特に気にしているのだ。
「ごめん、つい、、、」
「ハッ!まったく美月は仕方ないショ」
裕介はそう言って私の頭に手を置いた。
頭の上がヒンヤリとする。
その顔はあの笑顔なのか何なのか分からない、
陽子いわく、私だけに見せる裕介の笑顔。
それを見た途端、私の顔はいつだって火を噴くのだ。