第2章 幸せ者【御堂筋翔】
どこが好きかと言われれば、それは全部だ。
翔兄ちゃんの歩幅は大きい。
中学生にしては少ーしだけ身長の低い私は、一緒に歩いていてもいつのまにか置いてけぼり。
一生懸命歩いてるつもりでも気づいたら、その大きな背中は随分先にあって、
「あ!」
私は置いていかれないように時々走ってはその隣に並ぶ。
そして翔兄ちゃんを見上げては、
「ふふーん」
毎日一緒に帰ることのできる幸せを噛みしめるのだ。
翔兄ちゃんはめったに笑わない。
私が走って追いついても、それに気づいているのかいないのか、どこか違う方を見て知らんぷり。
だけど、
「ユキちゃんはいっつも幸せそうやなぁ」
なぜか私のニヤケ顔はバレていて、そう言う翔兄ちゃんの目は少し優しい。
「そんなに毎日、何が楽しいん?」
知らんぷりをしながら翔兄ちゃんは聞いた。
そんなの決まってるやん!
兄ちゃんと帰れることが嬉しいんや!
なーんて、はは、ホントの事は言われへんけどね。
「色々、、、かな!翔兄ちゃんは今日は学校どうやった?楽しかった?」
「、、、フツウやな」
「フツウて!!何かあるやろ!」
キーッ!
兄ちゃんはいっつもこうや!
「こう、ほら!今日は誰々と何した!とか!こんなこと言ってた!とか!!」
「無いなぁ、、、。とゆーか、プ、、、!何それユキちゃん。鼻の頭が真っ赤や。子供みたい」
「こ、、、これは寒いからやし!子供ちゃうし!もう来年は兄ちゃんと同じ高校生やもん!」
「子供ほど子供ちゃうて言うんやで?」
「キーッ!」
笑うのは、こんな風に私をいじめる時くらい。
それでもめったに笑わない翔兄ちゃんの、笑う理由が私ってだけで嬉しくて。
膨れっ面のまま私の足は浮足立って、勝手に笑顔がこぼれてくるのだ。