第2章 幸せ者【御堂筋翔】
「ユーキちゃん!一緒に帰らへん?」
部活が終わって帰る準備をしていると明るい声で呼びかけられた。
パッと顔を上げると見覚えのない男子生徒。
えっと、、、誰?
っていうか名前呼び?
私はけっこう不信感を顔に出していたと思うけど、その男子は臆せずニカッと笑った。
その八重歯は大きく歯並びは良くはないが、それが無邪気に見えなくもない。
「あ!俺のこと忘れた?こないだ、廊下で喋ったやん。安本や、安本!」
「あ、、、そういえば、、、」
私はこの前、廊下でぶつかった時に少しだけ話したことを思い出した。
そういえば、そんな名前やったかも?
「そういえばて!ひどっ!俺はユキちゃんのこと一時たりとも忘れたことなかったのに!ってことで一緒に帰らへん?」
「ってことでって、何が、ってことでなんよ」
「お!そのツッコミええなぁ!」
冷たくあしらったつもりが安本は嬉しそうに笑った。
これは人懐っこいと言えばそうなんかな?
でもちょっと苦手やな。
それに、、、
「ごめんな!私、帰る人決まってるねん!」
「え?それって彼氏?」
「それは言われへんわ」
「え、ちょっと待ってーや!ユキちゃーん!」
安本の声が聞こえたが、聞こえないフリをして走った。
私にはこんな奴に付き合ってる暇は無い。
校門が見えるところまで走って止まった。
そして息を整え、サッと乱れた前髪を直す。
さも、走ってなんてなかった風に見えるように。
だってカッコ悪いやろ?
好きな人の前で髪ボサボサで息切らしてるとか。
はやる気持ちを押さえてできるだけ落ち着いて歩いていき、手を振った。
校門前で立つ大きな影がゆらりと動いた。
「翔兄ちゃーん!」
「、、、なんや、今日はちょっと遅かったね」
私の呼びかけには応えず、手を振り返してくれることもない。
だけどマスク越しのその声を聞くだけで、私の心臓はほろ苦く脈打つ。
「ごめんな!えっとちょっと捕まっててん。…もしかして待たせちゃった?翔兄ちゃん」
ま、そんなことはおくびにも出さへんけど。
それが大人の対応やろ?
「、、、全然。それじゃ、帰ろか」
「うん!」
そっけない返事。
それでも…
文句1つ言わんとこうして毎日待っててくれるのは、、、なんてもしかして子ども特有の勘違いなんやろうか?