第1章 冷たい手【巻島裕介】
陽子が裕介をガン見していた。
「っ!陽子っ!」
慌てて陽子の目を塞ぐ。
裕介はただでさえ人付き合いが苦手だ。
それを女子、しかもこんな美人の大きな瞳に見つめられたら、そりゃあ汗をかいて目を逸らすわけである。
「ちょっと美月!邪魔!」
陽子はパッと私の手を払いのけて裕介に詰め寄った。
「ねーねー巻島くん、、、」
そして陽子は一瞬こちらを見てニヤリと笑った。
ちょ、、、ちょっと陽子。一体何を言うつもり!?
焦る私を尻目に陽子は裕介の耳元にその柔らかそうな唇を近づけ、、、
「金城くんに今度遊びに行こうって伝えておいて?」
と囁いた。
って!そっちか!!
私はガックリと肩を落とした。
「あ、、、あぁ。わかった、、、。それじゃ金城のトコ行ってくるっショ」
明らかに動揺しながら裕介は去っていった。
「はーい、よろしくねー!」
なんてニコニコと手を振る陽子は上機嫌である。
なんか一気に疲れた、、、。
「アンタねぇ、私が何を言うと思ったワケ?」
項垂れる私に陽子が声をかける。
「、、、、」
「バカね。私はアンタの代わりになんて絶対言ってあげないわよ?ちゃんと自分で言いなさい」
「、、、わかってるよ」
わかってる。
全ては陽子の言う通りで。
つまるところ私は巻島裕介に恋をしている。
だけど。
「それにしても正統派イケメン金城くんと、個性派イケメン巻島くんが話してるのを見るのもまた、、、眼福だわぁ」
陽子がうっとりと見つめる先、そこに見える玉虫色の長い髪がかかる横顔を見て、私は胸を締め付けられた。
ただ、
1つだけ陽子は間違えていることがある。
私が彼に言うべきなのは
愛の告白なんかではなくて、
笑顔でのお別れと激励の言葉。
だって裕介は
2ヶ月後の9月、
ここを離れ、
イギリスへと旅立つのだ。