第1章 冷たい手【巻島裕介】
これは、夢だろうか。
裕介とこんな風になれるなんて。
陽子があんなにドラマみたいだって騒ぐから、いつのまにか私の頭も変なドラマに毒されていたのだろうか。
だけど頬に触れる感触は確かに久々に感じるあなたの、冷たくて柔らかくて優しさに溢れた手。
この手はこんなにヒンヤリと冷たいのに、私の身体はどんどん熱くなって、
気を抜くとふわふわと浮いてしまいそうに気持ちがいい。
私はその手に頬を預けて言った。
「だからこの手は冷たいんだって」
せめてもの強がりと抵抗。
このままあなたに飲まれてしまうのはちょっと悔しいから。
「ハ!悪かったッショ!」
そう笑ってあなたが除けようとする手をそっと掴んだ。
「、、、ケド、今はこのままでいて?」
「はぁ?」
甘えた声の私にあなたは長い髪を揺らして首を傾げた。
「だってもうすぐ行っちゃうんでしょ?だからもう少し、、、この感触を忘れないようにインプット中だから」
このしっとりと柔らかくてヒンヤリとした手を忘れないように。
「忘れんのかよ笑」
「私、バカだから」
「ハ!じゃあ一生忘れないようにしねェとな」
そう言って裕介がニヤリと笑った途端、私の視界は真っ暗になって、、、
「え、、、?」
一瞬唇に熱いものが当たった。
「、、、これでもう忘れねェッショ?」
「、、、」
呆然とする私に向かって意地悪に笑う彼。
ダメだ、ずるい。
、、、爆発しそうだ。
だけど、、、、
「、、、忘れる!」
「はぁ??」
「私大バカだから、あんなんじゃすぐに忘れちゃう!」
ここで負けるなんて真っ平だ。
「、、、だからもう一回?ね?」
「、、、ッ!!」
その顔。その赤い顔が見たかった。
「はぁ、、、ったく!これで、、、いいんショ!!」
そう言って裕介はもう一度、少し悔しそうに
さっきよりも長く熱いキスを私にくれた。
「、、、インプット完了」
青空に浮かぶ裕介の乗る飛行機を見て私は思い出す。
あの冷たい手の感触を。
そして思う。
この熱い熱い日をきっと私は一生忘れないだろうと。