第1章 冷たい手【巻島裕介】
俺が冷たいのか。
それとも君が、温かいのか。
君の瞳から零れた涙をこの手ですくって、まずその温かさに驚いた。それとふと触れた指先に当たる君の頬の柔らかさに。
そして俺はよく君に言われた言葉を思い出した。
「もうっ!裕介の手は冷たくてびっくりするのよ!だからもう触らないで!」
そうだな、確かにこれはびっくりするッショ。
君はずるい。
ずっとそう思って、そしてここに現れた君を見た時もそう思った。
何も知らないくせに。
どんどん人の気持ちに入り込んで。
どうせこんな気持ちの悪い俺に、君の気持ちはくれないくせに。
どうしてそんな可愛い顔で笑うんだ?なーんて。
「裕介はずるいよ」
そんなことを言われるなんて想像もしてなかった。
「私ばっかり裕介のコト大好きで、、、」
そんなことも、、、
思えば君はいつだってこんな捻くれた俺のそばに居てくれた。
自分の気持ちを伝えるのが怖くて、「来れば?」なんて変な誘い方をしたレースだって君は毎回見にきてくれた。
そんな君をずるいだって?
ハ!俺はバカか?
どんだけ甘えりゃ気が済むんショ。
「触らないで!」
と何度言われてもあまり気をつけようと思わなかったのは、君がずるいを言い訳にしてつい触れてしまってたのは全部、君のことが愛しくて仕方なかったから。
ただそれだけの理由だったのに。
俺は彼女の涙をすくった右手をそのままその頬に添えた。
その瞬間、驚いて肩を震わせた彼女の瞳から収まりきらなかった涙が幼い俺と彼女の上に落ちた。
、、、本当にびっくりするッショ。
久しぶりに触れる君の肌は温かくて心地良くて。
どうしてこの手を離すことができるだなんて考えたんだ?
どうやっても手放すことなんてできるはずないのに。
これは罰だな。
君の隣を歩きたいと思いながら、その努力をしてこなかった俺への。
ずっと追いかけてきてくれた君をこんなに傷つけた俺への罰だ。
もう誤魔化したりしない。
全部話すから。
頼むからもう一度、俺に君の笑顔を見せてくれないか?