第1章 冷たい手【巻島裕介】
「ずるい、、、」
頭が真っ白になって、涙とともに溢れた言葉はそれだった。
嫌うならとことん嫌って、もう諦めるしかないってぐらい打ちのめしてほしいのに。
「裕介はずるいよ」
どうして同じ写真を持ってるの?
しかもそれがイギリス行きの荷物の中に入ってたなんて、
そんなんじゃ、また期待しちゃうじゃない。
「お、おい、美月、、、」
目の前の裕介はひどく慌てているのに、私の想いは止まらなかった。
「バッカみたい」
写真に写った満面の笑みの自分を見て吐き捨てるように言った。
「私ばっかり裕介のコト大好きで、写真撮れただけでこんなに喜んで、一緒に帰れるだけで嬉しくて、、、」
「ちょっ、美月、話を、、、」
「ねぇ、そんなにおかしい?バカでブスで、そんな私をからかってそんなに楽しい?」
違う、裕介はそんな人じゃない。
そんなこと私が1番知ってるのに。
次々と出てくるのはあなたを傷つけるためだけの歪んだ言葉。
「その写真だって向こうに持っていってバカにするつもりなんでしょ?コイツすっげー勘違いしてんの、とかって、、、」
「美月ッ!!!」
もう止まらない。
もう、終わりだ。
そう思った時、制御がつかなくなった私の言葉を遮って裕介が叫んだ。
と同時に強く肩を掴まれてハッとする。
裕介のそんな大きな声は初めてだった。
「そんなことするわけないッショ。ちゃんと、、、ちゃんと話すから、頼むから話を聞いてくれ」
掴まれた肩がキリキリと痛んだけれど、耳に入ってくる声は優しかった。
だけど、こんな悲しそうな顔した裕介を見たのは初めてだった。
「、、、うん、、、」
呆然と答える私を見て、裕介は少しだけ安心したように目を細めると、その細い指で優しく私の涙を拭った。