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恋の話をしよう【弱虫ペダル】短編集

第1章 冷たい手【巻島裕介】


陽子が大好きと言った作戦は、成功すれば確かにどこかで見たドラマのようだ。

但しそれはあくまでドラマだ。

主人公は現実にいたらビックリするほどの美人な女優さんで、相手は必ず主人公のことが好きなんだ。


だけど私は美人でもなければ、裕介の気持ちは、、、分からない。


私は枕元に飾っている写真を手に取った。
高校の入学式の日、綺麗に飾られた校門の前で裕介のおばさんに撮ってもらった宝物。

写真嫌いな裕介と初めて2人で写ることができた、たった1枚。





「ほら、裕介!美月ちゃん!並んで並んで〜」

「はぁ?写真なんていらないっショ」

「入学式なんだからいいじゃない!ねぇ、美月ちゃん?」

「そーよ!こんな時に撮らないでいつ撮るの?ほーらっ!」

「はーい!じゃあ撮るわよ〜。こら、裕介、笑いなさい!ハイチーズ!!」








「変な顔、、、」


今より少し幼い裕介はあの笑っているのかどうかよく分からない笑顔で写っている。
私がこの写真を見るといつも笑ってしまう理由だ。




なのに、今はその笑顔を見るのが辛い。




ねぇ、ホントは写真なんて撮りたくなかった?
それは、一緒に写るのが私だったから?

ねぇ、どうして私の前ではそんな笑顔なの?
東堂くんと走ってる時はもっと楽しそうなのに。
表彰台ではあんなに嬉しそうだったのに。




諦めたくない。
追いかけたい。





東堂くんにそう語ったあの日の気持ちは、日を追うごとにしぼんで。




私はもう一度写真に目をやった。

裕介と写真が撮れる口実を得た幼い私は、嬉しくてこれ以上ないくらいの満面の笑顔だ。




「すっごい不細工、、、」





私はなんて不細工で、滑稽なんだろう。











そして気がつくと夏休みが終わっていた。





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