第1章 冷たい手【巻島裕介】
「えぇ!?インターハイの写真、1枚もないの!?」
インターハイの翌週、駅前の静かなカフェで会ったそばから陽子が叫んだ。
「ちょ、ちょっと陽子!声が大きい、、、!」
「あんた、まさか、、、」
他の客の視線には目もくれず、陽子の瞳がキッと鋭く光った。
こ、こわい、、、。
「他の観客に遠慮して、ボーッと遠くから見てただけなんじゃないでしょうね!!」
「ち、、、ちがうもん!」
「ふーん、、、」
怪しい、
とでも言うように陽子は私を睨んだ。
ほ、本当のことですよ?
ちゃんと、前まで行きましたし、、、。
「まぁ、いいわ。写真なんかただの絵だし」
そう言って何食わぬ顔でアイスティーを飲む陽子。
えぇ〜、、、。
私がその絵の為にどれだけ神経をすり減らしたか、、、。
まぁ実際会場に着いてみたら、写真のことはすっかり忘れてたんだけど。
「そんなことよりあんたは巻島くんよ!どうなったの!?優勝おめでとうくらい言えたんでしょうね!」
「そ、それは、、、」
言えませんでした、、、。
「っはぁ〜、、、」
思わず俯いた私を見て陽子はわざとらしく大きな溜息を吐いた。
「、、、どうすんのよ。彼、新学期初日から行くのよね?いくら家が近いって言っても、それまでに彼に会いに行く勇気なんてあるわけ?」
「それが、、、その、、、」
「はぁ?」
私は今日陽子を呼び出した理由と、この間の東堂くんとの話をボソボソと伝えた。
「えっ!何それっ!!東堂くん!?だれか知らないけどナイスじゃなーい!!」
途端、陽子は目をキラキラと輝かせる。
東堂くんがとても綺麗な顔立ちのイケメンだということも伝えたらもっと喜ぶだろうか?
「それよそれ!別れ際の空港で愛を伝える!?ドラマみたい!!」
あ、、、愛、、、ですか?
「いい?あんた絶対に中途半端に巻島くんに連絡取ったり、会ったりするんじゃないわよ!」
「えっ?」
「焦・ら・すのよ!」
「なんで?」
「っはぁ〜、、、本当にバカね。久々に会えた、それも最後の瞬間に。っていうのが愛を深めるんじゃない。私、そういうの大好き!」
大好き!、、、ですか。
それは、良かった。