第1章 冷たい手【巻島裕介】
「そういえば巻ちゃん!最近、笹原さんには会っているのか?」
一通り部活の話をした後、唐突に東堂が話し出した。
ガタン!
「、、、ッ!」
「何の音だ!?巻ちゃん?巻ちゃーん!?」
ったく、、、うるせーよ。
お前のせいで俺のキャリーバッグがエスカレーターから落ちそうになった音だッショ。
「おい!巻ちゃん!返事をしろ!おぉーい!!」
思わず耳から離した携帯からは東堂の騒がしい声が漏れていた。
「はぁ、、、何でもないッショ」
キャリーバッグを起こして俺はエスカレーターから降りた。
「良かったー。ビックリさせるな、巻ちゃん!返事もないから何かあったのかと思ったぞ」
何かあったよ。
その何かはお前の口から飛び出したんだけどな。
「ハ!俺に何かあったら、そんなに悲しんでくれんのかショ?」
「もちろんだ!」
「ハハ、それはどーも」
「俺だけではない!巻ちゃんに何かあったら困る人がいるではないか!よく考えてみろ」
はぁ?また東堂は突飛押しもなく可笑しな方向へ話を持っていくッショ。
俺に何かあっで騒ぐのはお前と坂道と、、、アイツはもう、、、違うかな。
「そーだな、そんな貴重な人間はお前と坂道くらいなもんか?」
「違うぞ!巻ちゃん!!」
「うっ」
いきなり大きな声を出した東堂に俺の耳はキーンと痛んだ。
一体何なんだッショ、、、!
どーせ、海を渡るのは危険だから気をつけろとかそんなとこだろ。
ったく東堂、お前は俺の母親か笑
「、、、東堂、お前は声がデカイッショ」
「、、、もう1人、大事な人がいるだろ?」
痛みの収まった耳から、俺の話を華麗にスルーした東堂の一段低い声が聞こえた。
「えぇ?」
「例えばそうだなぁ、、、その人は今お前のすぐ後ろにいるかもしれんなぁ」
「はぁ、、、?」
またふざけた事を、、、そんなこと言ってどーせ俺をからかってんだろ?
「東堂、いい加減に、、、」
言いつつ振り返った俺の目に飛び込んできたのは、、、
「裕介!!」
「美月、、、?」
ずっと会いたかった人だった。