• テキストサイズ

恋の話をしよう【弱虫ペダル】短編集

第1章 冷たい手【巻島裕介】


「ったく、もう飛行機乗るってのに、どんだけギリギリにかけてきてんショ?東堂」



俺は、搭乗口に向かいながら東堂からの電話を取った。




「あははは!友の船出だからな!祝わねばならんと思ってな!」


相変わらず東堂は煩いくらいに明るい。
この声を聞くのも随分と久しぶりに感じる。
インターハイ以降、しばらく感じることのなかった熱を胸の辺りに感じて思わず顔が綻んだ。


インターハイの後、俺は残りの単位を終わらせるために必死になって図書館にこもった。
朝は開館に合わせて家を出て、夜は閉館ギリギリまで図書館にいる。
家には寝に帰っているようなもんだった。



そんな生活だったから
美月には会っていない。



そんな夏休みは、長くてあっという間だった。





「どうせ1人なのだろう?」



ハ!なんの気ナシに痛い所をついてきやがる。



「まァな。アイツらには見送りに来るぐらいだったら練習しろって言ってある」



着信履歴には東堂の名前がびっしりと入っていて、それ以外の名前はない。



それはつまりそういうことだ。
それでいい。
俺が望んだことだ。



君を忘れるために必死になって勉強して、
君から逃げるために家から離れた。



そんな風にしてしか君を忘れられない
ズルイ俺が選んだこと。



「今年のインターハイは負けたが、来年はうちが勝つよ巻ちゃん!箱学には、、、」




君のいないインターハイは思っていたよりも辛かった。
それを痛感したのは皆と並んだ壇上から見た景色に君がいなかった時だった。



呼ばなかったのは俺なのに、本当はどこか期待してた。
もしかしたら君は強引に、一ノ瀬さんにでもこの場所を聞いて、ずっと見ていてくれてたんじゃないか。





なんてな。笑






本当に笑っちまう。





こんなに俺はバカだったか?
それともどんだけ疲れてんショって。



思わず壇上で笑っちまった。






いるはずのない君の背中があの会場から去っていくのが見えた気がした。
なーんて。





東堂、お前にもこんなこと言えないッショ。

/ 100ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp