第1章 冷たい手【巻島裕介】
陽子を待っていたのと、1人で道に迷ったのとで、会場のゴール前に着いた時にはレースも終盤に差し掛かっていた。
前日までの結果を聞いていた限り、総北はかなり良い順位だったみたいだけど、、、一体どうなっているんだろう。
昨日、陽子と電話した時、
「今年のゴールは山の頂上らしいのよ!だから登りが得意な巻島くんか、エース金城くんが取る作戦らしいんだけど、、、どっちにしたって私達には好都合よね!あー!もう今から楽しみっ!!ゴールの1番前の場所、絶対取るわよ!!!」
って言ってたな、、、。
そんなことを思い出しながら会場を見渡した。
レースも終盤。
当たり前だけど、ゴール前にはたくさんの人が集まっている。
陽子が言ってた話は、金城くんから聞いたんだろうか。
何だかんだ仲良いんだよね。
私は、、、裕介から何も聞いてないや。
夏休みに入ってからも彼からの連絡はなかった。
インターハイ前日も、一昨日も、昨日も。
もしかしたらギリギリで、、、なんて、都合が良すぎるよね。
そんなことを考えて凹んでいると、ふと聞き慣れた声が耳に入った。
声が聞こえた先に目をやるとクラスの女子が応援に来ていた。
彼女達はゴールの近くで楽しそうだ。
皆、ゴールをした裕介達に声をかけるつもりなのかな、、、。
私は思わず後ずさった。
「ゴールの1番前の場所、絶対取るわよ!!!」
もしも今、陽子がここにいたなら、きっと彼女はあの大勢の人達を押しのけてでもゴールの1番前に行ったのだろう。
クラスの子達の目なんて気にせず一生懸命応援するんだろう。
そうやって頑張って、欲しいものをは全部手に入れる。
そういう女の子だ。
もしも陽子だったら、こんな風にちょっと好きな人に避けられたくらいで、めげたりしないんだろうな。
こんな風に、観衆から離れた場所で1人突っ立ってたりなんて、、、きっと。
「ごめん、陽子。こんな私じゃ、、、金城くんの写真は撮れなさそうだ、、、」
目の前がボヤけて視界が歪む。
さっきから放送でずっと実況が流れているけど、観客の声がうるさすぎて、うまく聞き取れない。
「何しに来たんだろ、、、私」
耳がツーンと痛くて思わず抑えた。その時だった。