【ペルソナ4】 Shining one Day by day
第1章 4月に芽吹くヒーロー
「うぅ・・・くそっ」
その視線に耐えきれなくなった少年は小さく言葉を吐き捨てると、踵を返して路地の向こうへあっけなく走り去って行った。
「おい、大丈夫か?なんもされてねーか?」
取り残された少女を放って置ける訳も無く、陽介はそっと声を掛ける。
「は、はい・・・」
不安で自分自身を抱きしめながら、ようやく声を振り絞る少女。
「あいつ、もう行ったから大丈夫だよ」
ふと少女を見ると、身体が小刻みに震えている。
「あ・・・!俺、別にアヤシイ奴じゃねーからな!?」
肩をすくめながら少しおどけて見せる陽介。
尚も震えの止まらない彼女。
この時陽介は、一つの勘違いをしていた。
彼女の震えの理由が、恐怖から来るものと考えもせずに、単に肌寒さから来ている物だと思い込んでいた。
「もう結構寒くなって来たし、ホラ、これ着てさ、もう家帰んなよ」
そう言いながら、着ていた紺色のパーカーを脱ぎ、少女の肩に掛ける。
「で・・・でも、これ・・・」
「ん?あぁ、気にすんな。丁度新しいの買った所だし。じゃあな、気を付けろよ」
今しがた男に絡まれていた子に付きっきりでいるのは、また怖がらせてしまうかもしれない。
そう考えた陽介はその場を早々と立ち去る事にした。
「俺、なんかちょっと今カッコ良かった・・・!?」
秋の夕暮れをTシャツ一枚で帰路に着く陽介。
ほんの少し自尊心をくすぐられた彼は、浮かれを隠すように走り出した。
いつもより少し早い鼓動の所為か、
素肌に当たる風の冷たさを全く感じる事は無かった。
後に、少女の震えの意味について、それは恐怖からだったのかと思い当たり、的外れな行動を起こした事に陽介が恥じたのと、自分の窮地を救ってくれたヒーローが、最近できたジュネスの店長の息子だと睦月が知る事はほぼ同時の事だった。