【ペルソナ4】 Shining one Day by day
第1章 4月に芽吹くヒーロー
それでも攻撃を止めない彼女に業を煮やしたのか、シャドウが指先の疾風を彼女に叩きこむ。
「きゃっ・・・」
今度こそ彼女は疾風を全身に受け、俺の遥か後ろにある壁へと身体を叩きこまれた。
大きな音を立てて酒樽や棚が崩れる。
目の前の状況に俺は絶望するしかなかった。
あの子が無事では無いのが明らかだったから。
傷や体力を回復できる術は、俺には無い。
仮に今彼女に駆け寄った所で、シャドウがそこを狙わないはずがない。
それならば、今俺が出来る事は・・・
一度目を閉じ深呼吸をし、ぐらついた精神に落ち着きを取り戻す。
目を開けると宙に浮いていた青白く光るカードを掌で砕き、
乾いた唇から、その言葉を解き放つ。
「ペルソナ!」
心の底で何かが目覚めたような感覚。
研ぎ澄まされたそれに身を任せて腕を上げる。
その動作に呼応するかのように顕現したイザナギが、雷の力を放つ。
次の攻撃に向けて再び指先に力を込めるシャドウは少し油断していたようで、雷をまともに喰らいうめき声をあげた。
逃げるなら今しかない。
未だ倒れたままのあの子との距離を確認しながら、俺はうなだれたままの花村に駆け寄った。
「花村!立て!」
「鳴上・・・俺・・・」
「花村急げ。早くしないと全員やられるぞ!」
「違うんだよ、鳴上。あの化け物は・・・俺の心だ・・・」
立ち上がる花村はよろけながら大きなシャドウへ向き合う。
さっきまでの凶暴さと違い、ゆっくりと動きを止めるシャドウ。
その体躯の所々にノイズのような物が走っている。
対峙した花村が静かに話しかけはじめた。
その声には、否定の色も、怒りも無く、ただ、悲しさと優しさに溢れていた。
脆いその雰囲気を壊さないように、音を立てずに気をつけながら、壁めがけて俺は後退した。
物音一つしないその壁際。
嫌な予感を振り払うように、俺はそっと制服の袖で汗を拭った。