第9章 特別な1日 ( 大神 万理 2019生誕 )
さっき見た大和くんの演技のように愛聖の頭を掻き寄せ、ゆっくりと自分の顔を寄せていく。
『あ、あの、万理・・・?』
ドギマギしながら時計をチラリと見た愛聖が、俺の肩に手を置いてそっと押し返そうとする。
「ダーメ、逃げるの禁止」
もう、少し。
あと、少し。
唇が触れ合いそうな、その瞬間。
〝 ジリリリリリリリリリッ!!!! 〟
「うわぁっ!」
『だから、もうちょっと待っててって言ったのに』
突然鳴り響くけたたましいアラーム音に驚き、胸を押さえる俺を見て笑いながら、愛聖が自分のスマホに仕掛けたアラームを止めた。
「なんでこんな時間にアラームなんてかけてるんだよ・・・はぁ・・・びっくりした・・・ 」
『ごめんってば。でもね、ほら見て?』
愛聖が俺にスマホの画面を向ければ、そこには ‘ 0:00 ’ と大きく表示され、日付けが変わった事を示している。
『やっと、魔法が解けた・・・万理、お誕生日おめでとう』
「あ、ありが、」
ふわり、甘く柔らかな愛聖の唇が俺の唇と重ねられて、でも、すぐにそれは離れていく。
「・・・愛聖?」
もっと甘く、もっと・・・深く・・・と催促するように抱き寄せれば、次のキスの前にアラームの種明かしを話してくれた。
『実は、ね。ロケが終わって社長に連絡した時、社長が私に、シンデレラの魔法が解けるまではイチャイチャ禁止だからね?って』
「シンデレラの、魔法?」
『うん、そう。日付けが変わるまでは、小鳥遊プロダクション所属の女優、佐伯 愛聖だよって。でも、ちゃんと約束守れて日付けが変わったら・・・1日だけ、なんの縛りもない、ただの 佐伯 愛聖に戻してあげるって』
社長・・・なんて小洒落た仕掛けを。
『ここに来てから、万理がずっとソワソワしてたのは分かってたけど、でも社長との約束を守ったら1日だけど、ずっと万理と過ごせるから私も我慢してたんだよ?』
「バレバレだったのか・・・俺ってそんなにわかりやすい?」
愛聖が来てからの自分の行動を思い出しながら、何となく気恥ずかしくて片手で顔を覆ってみる。
『バレバレだったけど・・・でも良かった。誰より早く、万理におめでとうが言えたから』