第12章 いつか届くといいな・・・ ( 七瀬 陸 )
『今までいろんな俳優さんたちとドラマや映画の中で恋愛はしても、実際は恋愛偏差値ゼロだから・・・手探りなのにね』
もっと頑張らなきゃなぁって呟きながらベンチについた手に体を傾ける愛聖さんは、オレに笑ってみせるけど、その笑顔の向こう側でオレたちよりずっと大変な苦労があるんだと分かる。
『だからさっき七瀬さんが、いつもの私に好きって言いたいし、好きって言われたいって言ってた時、嬉し・・・』
そう話す愛聖さんの指先を、自分の手を重ねて指先をちょっとだけ絡ませる。
「頑張ってる愛聖さんだから、みんな愛聖さんを好きなんだと思います。環なんて大きな犬みたいに懐いちゃってるし。オレはもっともっと頑張らないと天にぃには追いつけないし、一織にもちょいちょい怒られたりもするけど・・・オレもそんな愛聖さんが好きです」
『えっと、ありがとうございます』
「あ、あの!変な意味の好きじゃなくて、憧れって言うか、もっとちゃんとした好きっていうか・・・って、なに言ってんだろオレ・・・」
雰囲気流されて、また変なこと言っちゃったよオレ!
「好きって、難しいな・・・」
『え?』
「アハハ・・・なんでもないです」
誰よりも大きな声でそれを言うには、今はまだ早いかもって思う。
アイドリッシュセブンがTRIGGERを超えて、Re:valeでさえ撃ち落とせるくらいになったら、胸張って声を大にして・・・好きって言えるのに。
だけど、それでも好きな気持ちには変わりはなくて。
そんな自分の気持ちがいつか届くといいな・・・なんて思いながら、絡めた指先にキュッと力を入れる。
「オレ・・・頑張るから」
小さく呟いた声は、寮の窓から届く賑やかな声にかき消されたけど。
『あ、七瀬さん見て?今夜は満月だったんですね』
そう言って夜空を見上げる愛聖さんを、今は独り占めしようと胸の奥で小さく笑う。
そんな小さな独占欲を、満月が静かに照らしていた。
~ END ~