第8章 なんだか照れるね··· ( 逢坂 壮五 )
困ったね···と僕が言えば、愛聖さんがフフッ···と笑った。
『お忘れですか、逢坂さん?私達っていま、恋人同士···ですよ?』
「それは分かってるけど、でも···どうしたら···あ、そうだ···愛聖さん、僕にちょっと考えがあるんだけど、いいかな?」
『分かりました、お任せしますね』
こういう時、女性の扱いが上手いナギくんなら···きっと···
ふと浮かんだナギくんの日常を思い出しながら、まだ包んだままの愛聖さんの指先に唇を寄せる。
僕がそれをすると、愛聖さんは一瞬だけ瞳を揺らしたけど、何度かゆっくりと瞬きをして···微笑んでくれた。
それから、ナギくんは···こう、するかな?
反対側の手で愛聖さんの頬をそっと撫でたり、抱き寄せたりしてみて···だけど···なんだろう、この···スッキリしない感じ。
確かにナギくんなら、こういう時はこうするだろうなとかはお手本にはなってるんだけど。
でも、じゃあ···僕は?
僕なら、愛聖さんが本当に恋人だとしたら。
···どう、したいんだろう。
『逢坂さん?』
もし、僕だったら···
「ね···僕のこと逢坂さんじゃなくて、名前で呼んでみて貰えるかな?」
本当に恋人同士だったら、きっとそう、だよね?
『えっ、と···壮五さん···?』
躊躇いながら僕の名前を呼ぶ愛聖さんに胸の奥が跳ねる。
「もう1回···」
『···壮五さん』
「何度も呼んで?」
『じゃあ···壮五さんも、呼んでみて下さい』
僕、が···?
速まっていく胸の高鳴りを堪えながら、愛聖さんの目を見る。
「···愛聖」
『はい···』
澄んだ瞳に吸い込まれそうになりながら、その額や目蓋にそっと唇を当てて行く。
『擽ったいです、壮五さ···ん···』
見つめ合って名前を呼ばれて···引き寄せられるままに、愛聖さんの柔らかな唇に···自分を重ねた。
「お疲れ様でーす!!」
駆け寄るスタッフさんの足音と声で、パッと体を離してしまう。
僕はいま···何を···?
思わず自分の口元を隠し愛聖さんを見れば、愛聖さんも同じように僕を見ていて。
···小さく笑い合った。