第8章 なんだか照れるね··· ( 逢坂 壮五 )
街中を手を繋いで歩くカットや、ひとつのアイスを食べさせあったり、愛聖さんの口元に付いたそれを指先で拭い取ったりして。
僕にとっては、そのどれもが初めての事だからドキドキしながら愛聖さんとの撮影を進めていたんだけど···
『あれ···逢坂さん、雨が···』
公園の中を歩いていると、ぽつん···ぽつん···と僕達を雫が濡らして行く。
「撮影開始した時はあんなに晴れてたのに···とりあえず雨宿りをしようか。ほら、ちょうどあそこに屋根がある場所があるから」
少し先に見つけた屋根付きのベンチを指して、段々と強まっていく雨の中を手を繋いだままで走る。
スタッフさん達も機材が濡れないようにバタバタとしているのが見えた。
「ここなら、少しの間は雨宿りが出来る···ね」
言いながら愛聖さんを見れば、そこかしこが雨に濡れて···その···ブラウスが透けてたりして。
「ご、ごめん···そうだ、ちょっとサイズが大きいかも知れないけど、これ羽織ってて?」
衣装さんから着せられたジャケットを脱ぎ、愛聖さんに掛けた。
『ありがとうございます。でも、逢坂さんも結構濡れちゃってますよ?だから、これをどうぞ』
愛聖さんがハンカチを取り出し、雨雫を押さえてくれる。
そんな愛聖さんの手を···僕は無意識に自分の手で包んでしまった。
『逢坂、さん···?』
「あ、ごめんね、なんかちょっと···なんでだろう···」
そう言いつつも、手を離す事が出来ない。
『逢坂さん、このままで聞いて下さい···多分ですけど、撮影続いてるみたいです。だから···』
愛聖さんに言われてそっとスタッフさん達の方を見れば、確かにみんな雨の中で機材を庇いながらも僕達を見てる。
あの監督さんは確か、どんなシャッターチャンスも逃さない···って愛聖さんが言ってた。
だから、オフショットとかも被写体が自然な感じの···ありのままの姿を写されてたりするとも。
「僕達だけ屋根の下になのは申し訳ないけど、カメラが固定されてるって分かってるなら続けた方が良さそうだね」
僕が言えば、愛聖さんも小さく頷いた。
「だけど、こういう場合って···この先どうしたらいいんだろう」