第5章 聖なる夜に、愛が降る ( 千 生誕 )
『千、あと1分だって』
万の声を聞いて体を離そうとする愛聖を更に抱きしめ、小さく笑う。
「1分あれば、充分だよ」
『千?』
愛聖の頬に手を当て、真っ直ぐ見つめる。
その距離は徐々に縮まって···愛聖が恥ずかしそうに瞳を伏せて···
僕たちは触れ合うだけのキスをした。
百「バンさん、もう開けてもいい?」
万「よし、じゃあ···千、開けるよ?」
万がドアを開ける前に、僕がそれをする。
「ホント、騒々しい···」
あからさまなため息を吐いて言えば、万は僕をマジマジと見て小さく笑った。
「なに?」
万「別に?ちゃんと仲直りしたんだなぁって、思っただけ」
百「あーっ!ユキの、ムグッ···」
万「シーっ!まだ教えちゃダメだって」
騒ぐモモに、怪しげな万を交互に見て···最後に玄関先にある鏡を見る。
「これか···」
僕の唇に重なる、艷めくルージュ。
呟いて愛聖を見れば、モモが何に騒いでるのか気がつき···恥ずかしそうに自分の口元を隠した。
「羨ましい?」
万理に言えば、別に?と返される。
「そう?···残念」
不敵に微笑みながら唇をペロリと舐めれば、そのルージュは仄かな甘みを感じさせた。
万「とにかく、3分待ってあげたんだから中に入れてくれよ···本気で俺たち凍えるから」
はいはい、どいて···と言いながら、万理が先に部屋へと上がり、その後ろからモモが賑やかに靴を脱ぎ散らかして万理の後に続いた。
「···静かな夜だと、思ってたのに」
ドアを閉めながら零せば、愛聖が笑う。
『せっかくの千の誕生日なんだから、賑やかでいいんじゃない?』
「一緒に過ごすのは···愛聖だけで充分なのに」
『まぁ、そう言わずに?万理が千の家に着いたらご馳走並べるって言ってたし。千が好きな物たくさん作るんだって張り切ってたよ?』
「1番のご馳走は、ここにあるんだけどね」
まっすぐ愛聖を見て言えば、そういうのはまた今度!と言って部屋の中へと逃げられた。
···今度なら、いいんだ?
そっか···じゃあ、ちゃんと覚えておこう。