第5章 聖なる夜に、愛が降る ( 千 生誕 )
全ての仕事を終えて、誰もいない家に帰る。
リビングの隅では、愛聖が子供のようにはしゃぎながら飾り付けたツリーがキラキラとライトを点滅させていた。
薄暗い部屋の中をツリーに向かって歩き、飾りの中に紛れさせた小さな箱をそっと指で撫でる。
「今年は、お前の出番はなくなるみたいだ」
ツン···と軽く弾けば、その小さな箱はユラユラと揺れながらライトの光を反射させた。
部屋の明かりもつけることなく、薄暗闇の中でツリーの前に座る。
本当なら今頃、僕の隣には···愛聖が···
そう思うと、1人きりの部屋が寂しくなる。
1人でいる事は平気だったはずなのに。
愛聖がいないってだけで、どうしてこんなにも···ハァ···やめよう。
どれだけ考えたって、愛聖はここにはいないんだ。
明日だって愛聖がここに来る可能性もない。
昔のようにひとりで過ごす、誕生日。
ひとりきりで過ごす、クリスマス。
時計を見れば、あと数分でその日がやって来る。
···ため息、ひとつ。
瞬くツリーに照らされて···ため息、ふたつ。
僕の気持ちなんてお構いましに進んでいく時間を眺めながら、日付け変更までのカウントダウンが始まる。
·········3
······2
···1
スマホに映し出される数字が全てゼロになり、それは日付けが変わってしまった事を僕に告げる。
とうとう、この日になってしまったか。
自嘲する笑いを浮かべた時、静まり返る部屋にインターフォンが鳴り響く。
こんな時間に誰だよ。
そう思いながら立ち上がりモニターを覗けば···
「モモ···」
百 ー ユーキー!お願い、寒いから早くエントランスのロック開けて···モモちゃん、寒くて死んじゃう! ー
「あ、あぁ、分かった···いま開けるから」
モニターを切って、すぐにエントランスのロックを解除する。
鍵はモモが持ってるから、玄関は勝手に開けて入って来るだろ。
そこまで考えてみて、ふと···気付く。
どうしてわざわざインターフォンなんて?
いつもなら僕がいなくても自由に部屋に入ってるのに。
まぁ、モモの事だから···鍵、忘れたとか?
モモなら持ち忘れるなんてやりそうだな、なんて小さく笑っていると、玄関のインターフォンが鳴る。